(前週のつづき)
・処理(水)
原子力発電所の稼働や、東電福島の重大事故で発生する放射性物質は、それぞれの仕方で「処理」されることになりますが、どの場合も一気にと言うか、簡単に「処理」して片付けるという訳には行きません。たとえば、「第一原発伐採木焼却施設」は、広大な東電福島の敷地で、汚染水タンクの増設など用地確保の為、伐採された樹木などでしょうが、高濃度で汚染されていますから、木材として使用するのは論外です。かと言って、伐採された放射能にまみれた樹木を放置する訳に行きませんから、特別の焼却施設が必要で、3月にその施設の本格稼働が始まります。こうした施設を、「減容化施設」と呼んでいますが、確かに全体の容積は少なくなりますが、放射性物質は濃度が高くなり、全体としての放射性物質はそのままです。
要するに、放射性物質というものは、「処理」が難しい、不可能なのです。で、伐採木を焼却した高濃度の「灰」はそのまま残り、その「安全」な保管場所が必要になります。
一旦、環境中に放出された放射性物質は、どんな意味でも、「処理」にはなじまないのです。
ですが、たとえば、薄めて海洋放出が決められてしまった、大量の汚染水は「処理水」と呼ばれることになって、「薄める」のと、「海洋放出」の施設の建設工事が始まろうとしています。こうして「処理水」と呼ばれる汚染水は2段階の「分離」でも残る放射性物質と、科学的には「処理不能」とされるトリチウムがほとんどでだいたいの濃度は、80万ベクレル/ℓと言われています。
微量とは言え多核種の放射性物質とそんなトリチウムを含む汚染水を、「処理水」と称し、薄めて海に流すのが、決められた、いわゆる「海洋放出」です。
こうして、「処理水」と称することになっている汚染水は、壊れて言わば「無防備」になっている原子炉に、地下水が流入することによって、溶融した核燃料などと接触し、高濃度の汚染水になりますが、その量は、2021年度平均で、150トン/日です。「東電は汚染水を浄化した処理水をタンクに保管しており、23年春ごろに容量130万トンが満杯になると試算している」(1月28日、福島民報)。ここでも、浄化した「処理水」とされていますが、そのいずれも、事実に反しています。浄化も処理も、たとえばそのものの「毒」を、いくばくかは薄めることですが、放射性物質に関する限り、それは不可能です。できるのは、その毒のいくばくかを分離し、別の場所に移すことだけです。高濃度の汚染水の場合、第一段階のセシウム、第二段階の多核種のいくばくかは分離され、高濃度の汚染物として厳重な管理のもと保管されることになります。
そうして、完全に分離できない放射性物質は、中でも分離が不可能とされるトリチウムを含む水は、処理水ではなく、立派に汚染水です。
それが、「処理水」と定義されて決まったのが海洋放出です。更にやっかいなのは、こうして「処理水」と称して、海洋放出が決められている汚染水なのですが、今も、毎日、150トンずつ増えていることです。その時の、その年の降水量によって、それは決まるとのことですが、たとえば、それを少なくする、ないしは止める為に実施されたはずの、地下水の流入を防ぐ為の氷の壁、凍土壁が十分に機能していなかったりするのです。
なお、東電や国は各建屋内に滞留する高濃度の放射性物質を含む水のみに「汚染水」という表現を使い、ALPSなどでトリチウム以外の放射性物質を除去したとされる水を「処理水」という表現を使って区分している(東京電力2021d)。しかし、この「処理水」の中には、トリチウム以外の放射性物質が相当量残存していることが確認されている(東京電力2018)。そのような状況において、「処理水」という表現を使うことは、汚染水が減少しているような誤解を生むことになる。本専報においては、「処理水」もトリチウムのほか除去されていない放射性物質を含むことから、一般的な科学用語の基準に準じて、建屋内とタンクに保管された水を合わせて汚染水として表現する。
「福島第一原子力発電所の地質・地下水問題-原発事故後10年の現状と課題-」
(編著:福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ/地学団体研究会)より
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