(前週よりのつづき)
(国・東電は)突き付けられている事実とその深刻さは、誰よりも承知していますし、それを稼働した責任はまぬがれませんから、事故の最終処理(の一つ)としてのデブリ取り出しを、その実際の工程も含めて公言せざるを得なくなります。
で、断続的に「公言」しているのが、デブリ取り出しの現状の報告です。ただの報告では、世界は納得しませんから、具体的な進捗状況を報告することになって、それが、2月10日、2月17日、2月24日、3月12日などの「デブリ」と表示された新聞の記事です。「福島第一原発、デブリ採取へ、遠い廃炉、年内着手、ロボット訓練、わずか数グラム、残る880トン、放射性粉じんと格闘」(3月12日、福島民報)。
こうした新聞記事の言葉による「虚構」と言うか、「誘導」と言うかは、そもそもが、国・東電の発表をそのまま鵜呑みにして発表しているのか、新聞による解釈・編集なのかは定かではありませんが、言葉の並べ方と言うか、表現が矛盾しています。
デブリをめぐる事実ははっきりしています。
取り出す・廃炉と言うことでは、事故から11年経って何一つ進展はしていないのです。
なのに、断片的な見出しのモザイクのつなぎ方では、何かが進んでいる、デブリの取り出し・廃炉は着々と進展していることになります。間の「遠い廃炉」を抜いて都合よく「デブリ採取…年内着手」だけを見ると、デブリの取り出しは、本格的に始まっていることになります。でも、現状は、その為のロボットアームの訓練が行われているだけです。で、それでもって取り出せるとしても「わずか数グラム」です。しかし「残る880トン」だけ見ると、要するに「残っているのは、880トンか」となりますが、実際に取り出せるとしても数グラムですから、こんな場合は「残り」とは言わないものです。たとえば、マラソンの42.195キロのうち、数メート走っただけで、「残りは、42.194キロ」などとは言ったりしないものです。
要するに、デブリの取り出し、廃炉は何一つ進展していないし、そもそも、手掛かりさえ難しいのです。それは、原子力発電所というものが壊れる、特に燃料が溶融するような事故になった場合、ほぼ全く手のほどこしようがないのです。
それが、東電福島の重大事故です。
東電、そして国は、事故直後から、そんな事故が起こっていることを承知していました。そうであったからこそ、途方もない量の放射性物質の環境中への放出の事実、事故現場が人間を寄せ付けない超高線量の放射線量である事実、それが取り返しの付かない重大事故そのものであることを承知していて、隠すことにしたのです。
そうして始まってしまった、事故対策でしたから、どんな意味でも始末に負えない環境中の放射性物質の放出の事実を「アンダー・コントロール」の名のもので、処理可能として今日に到っています。それが、いわゆる「デブリ」をめぐる新聞記事になっています。
2.「処理水」の海洋放出で事故対策は大きな山を越えるとする対策について。
「処理水」が「海洋放出」となったのは、もともとそれが妥当であるからではなく、「出所」は、それを「貯蔵するタンクの増設する場所が敷地内に確保できない」という、東電の主張を鵜呑みにするところから起こっています。更に、それを妥当としているのは、本来は「汚染水」であるものを、情報の操作と科学的理解をゆがめて「処理水」にしてしまうところから起こっています。
①「貯蔵するタンクの増設する場所が敷地内に確保できない」について
元はと言えば、たとえ東電福島の敷地内であっても、汚染水のタンクを置くことは許されません。しかし、東電福島の全体が、汚染地域になった時、そこは「特定原子力施設」ということで、どんな放射性物質であっても、それを置くことが許されることになりました。その一つが100万トンを超える汚染水であり、その容器としてのタンクです。それも、およそ1000トンと言われるタンクが1000個を超えて「増設する場所が確保できない」、だったら海洋放出となったのです。しかも、それは「処理水」であって、「汚染水ではない」になっています。
だったら、最初から「処理水」として海洋放出したらよさそうなものなのに、そうはしませんでした。まごうかたなき「汚染水」だからです。
②それは「処理水」か「汚染水」か
それは、まごうかたなき「汚染水」です。環境中に放出された放射性物質は、どの場合のどんな放射性物質も、人間の手で処理することはできません。東電福島の事故で環境中、中でも人間の生活世界の中に降り注いだ放射性物質は、「除染」することになりました。その「除染」を合言葉に、広い範囲の生活世界、住宅や宅地、公園や農地などがほぼすべて人の手で削り取られることになりました。で、放射性物質が無くなった訳ではありません。汚染物質、汚染土壌として別の場所に移動されることになりました。
(次週につづく)
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