(前週よりのつづき)
以下、ロシア大統領プーチンによるウクライナの戦争に迫りかつ、この戦争に終わりがあるとすれば何かについて、ソローキンとアレクシェーヴィッチであっても見通し難い「見通し」について、長くなりますが引用します。
ロシア大統領だったプーチンが、メドベージェフに代り、4年後の2012年に大統領に復帰し、2022年現在も大統領で、大統領であった期間は実質的には23年です(メドベージェフはほとんど傀儡)。こんな事が「あたりまえに」起こる社会・国はどんな意味でも、独裁国家でしかあり得ない事実を、ロシア大統領プーチンによるウクライナに対する戦争の後、繰り返し引用してきた、ウラジミール・ソローキンの「過去からのモンスター」から改めて引用します。
「また、ウクライナ国家についても、イリインに倣って『レーニンによって創られた』のだと軽蔑的に述べている。実際には独立ウクライナを創ったのはレーニンではない。憲法制定議会がレーニンによって解散させられた直後の1918年1月、ウクライナ中央ラーダ(当時事実上ウクライナの自治政府の役割を果たした機関でロシアの臨時政府と激しく対立した)が創ったのだ。この国家が生まれたのはレーニンの侵略のせいであって、レーニンのおかげではない」「『プーチンのもとでロシアは立ち上がった!』彼の崇拝者たちはしばしばそう口にする。誰かが冗談で、国は膝を突いた状態から立ち上がったけれども、すぐ四つん這いになってしまったと言った。腐敗、権威主義、役人の専横、貧困。今やそこに戦争を付け加えてもいいだろう」「メルケルは、私の意見ではプーチンは自分の空想の世界に住んでいると告白した」「東ドイツで育ち、プーチンの本性を知っているメルケル氏は16年にわたって『対話を続けてきた』。対話の結果が、ジョージアの国土占領、クリミア併合、ドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国占領、そして今や、ウクライナとの全面戦争」「プーチンの内なるモンスターを育てたのは、我が国の権力ピラミッドや、ツァーリが暴吏にするようにプーチンが自分のテーブルから脂ぎった腐敗の塊を投げやった金次第のロシアのエリートたちだけではない」「無責任な西側の政治家、シニカルなビジネスマン、金次第のジャーナリストや政治学者たちの称賛も彼を育てた」「今一つだけ確かなのは、この戦争によってプーチンは一線を、レッドラインを越えたということだ。仮面に脱ぎ捨てられ『啓蒙専制君主』の鎧はひび割れた。今や西側の『強大なロシアのツァーリ』の共感者たちは口を噤み、21世紀のヨーロッパ全面戦争が開始されたと自覚すべきだ。侵略者はプーチンのロシア。それはヨーロッパに犠牲と破壊をもたらす。この戦争を始めたのは、絶対的な権力によって堕落し、その狂気の中で世界地図を塗り替える決断を下した男だ」「プーチン主義は破滅の運命にある――なぜならそれは自由の敵であり、民主主義の敵だからだ。そして、人々は今日そのことを決定的に理解した。彼が自由で民主的な国を攻撃したのは、その国が自由で民主的であるからというだけなのだ。しかし、彼は破滅の運命にある――なぜなら彼は新しい中世を、腐敗を、嘘と人間的自由の蹂躙を求めていたからだ。なぜなら彼は過去だからだ。そしてこのモンスターが自らの権力ピラミッドと永久に過去に留まるよう、私たちはあらゆることを行うべきだ」。
「本エッセイは2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受けて急遽書かれた」(文芸2022年夏号「プーチン、過去からのモンスター」)の結びの「そしてこのモンスターが自らの権力ピラミッドと永久に過去に留まるよう、私たちはあらゆることを行うべきだ」であるのは、プーチンによって「21世紀のヨーロッパで全面戦争が開始されたと自覚すべき」ことが起こっているからです。更にそれは、ヨーロッパに止まらないと自覚すべきで「この戦争を始めたのは、絶対的権力によって堕落し、その狂気の中で世界地図を塗り替える決断を下した男」の戦争の始まりでもあるからです。
現実に、多くのヨーロッパ諸国、アメリカが軍事援助をしているにもかかわらず、この戦争が終りにならないのは、「侵攻」したロシアの敗北はあり得ないことを計算の上での戦争だからです。侵攻・侵略であるこの戦争が、プーチンのロシアの劣勢になった時、そしてロシアの敗北する時「絶対的権力者プーチン」の世界による断罪は不可欠になりますから、「核兵器」の後ろ盾はロシア・プーチンにとってこの戦争の現実的な手段なのです。
(次週につづく)
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