だれでも奴隷ではないからである ①
ルーマ・ゴッデンの「ハロウィーンの魔法」を読んで、同じゴッデンの「台所のマリアさま」を久しぶりに読み直しました。たぶん読んだのは30年以上前だったように思えます。読み直すことになったのは、そう言えば「台所のマリアさま」の主人公のグレゴリーとジャネットの家にやとわれているマルタの出身はウクライナだったことを思い出し、およそ30年ぶりに読み直すことになりました。
「…マルタはウクライナ人だった。『あの悲しげなのはふしぎではありませんよ』お母さんは言った。『あの国の歴史を考えてもごらんなさい』だが、マルタの悲しみはその故国と何のかかわりもないとグレゴリーは考えていた」。以前「トーマス家にやとわれたのだった。『あすこには22年いましたですよ』」マルタはいった」となっていて、「台所のマリアさま」の出版は1967年ですから、およそ20年前の「…あの人の国の歴史」は、第2次大戦のドイツ・独ソ戦に蹂躙（じゅうりん）されたウクライナから避難することになった歴史と重なるように思えます。
「マルタもルートル（グレゴリーの飼っている猫）もつらい経験をしていることでは共通していた。お母さんがいうには、マルタは生まれ故郷の村から兵隊たちに追われ、難民として逃げ出したのだ。そしてそれ以来、母親にも、父親にも、村の人たちにも会えないでいるのだった」。その故郷・ウクライナについてグレゴリーとジャネットは聞かせてもらいます。「グレゴリーとジャネットは、故郷の話をマルタにしてもらうのが好きだった。ひとつしか部屋のない家、大きな川のそばにある小さなルティンカの町の話を。『川と森の間にあるんですよ』とマルタはいった。マルタは自分の母親について話した。マルタがまだほんの小娘のころ母親は縫物や糸の紡ぎかた、刺繍のしかた、パンの焼き方などを教えこんだのだった。そればかりか、薪を切り、水を汲み、山羊に食べさせる草や薬草の集めかたも教えた。グレゴリーとジャネットは、山羊の話を聞くのが好きだった。それに大きな馬の『カリー』―それは『黒い』という意味だった―の話も好きだった。この家族も同然の馬は雪のなかをそりを引いて帰ってくると、湯気をたてた。マルタが台所で育てた仔ブタの話も聞いた。だが一番ふたりが好きだったのは、オオカミの話だった」
こうして長々と引用したら、マルタのウクライナは、同じような時代の日本の田舎（富山県氷見市一刎・ひとはね）でも、「オオカミの話」以外は、ほぼ同じように起こっていました。
マルタのそれは、ヒトラーのドイツ、そして独ソ戦でそのすべてが奪い去られ、マルタは難民となって、イギリスの家庭で、住み込みの使用人として働いています。
マルタの生きたおよそ20年前のウクライナで起こっていたことが、70年後のウクライナで繰り返されています。
ロシア大統領プーチンによるウクライナの戦争です。
この戦争について、「一見遠回りかもしれませんが、歴史をさかのぼることで、現状分析だけでは理解できない深い背景を知ること」「長期的変動を見極めよう」としたのが「中学生から知りたい、ウクライナのこと」（小山哲・藤原辰史、ミシマ社）で、著者の願いは「テレビや新聞の記事、SNSから伝えられる情報を鵜呑みにせず、自分の頭で考え、誰かと共有していくたのきっかけとなることを祈って書く」ことでした。その時に、「政治家や学者やジャーナリストよりも深く考えることは可能になる」として、それを大きくは以下の2点から示そうとしています。
「現在のウクライナの領域は、かつてポーランド領だった場所が多く、ポーランド語の話者も、ポーランド人と同じカトリック信者も少なくありません。かつてはお互いに殺しあった悲惨な歴史も共有している」。
「ドイツ史からウクライナを眺めるという視点―ロシアやドイツに、場合によっては複数回にわたって占領されたポーランドやウクライナの歴史を知ること」。
こうして「出発点になる」の更に出発点の2022年2月26日に、小山哲・藤原辰史らによって出された声明が「ロシアによるウクライナ侵略を非難し、ウクライナの人々に連帯する声明」です。
「ロシアによるウクライナ侵略を非難し、ウクライナの人々に連帯する声明」
私たちは、ロシアによるウクライナの侵略を、ロシアがどんな理由を掲げようとも、強く非難します。」
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