(前週よりのつづき)
以下、長い長い引用になりますが、シェフチェンコ(*2)の詩「暴かれた墳墓(モヒラ)」です。
静けさにみちた世界 愛するふるさと
わたしのウクライナよ。
母よ、あなたはなぜ
破壊され、滅びゆくのか。
朝まだき 太陽の昇らぬうちに
神に祈りを捧げなかったのか。
聞きわけのない子どもたちに
きまりごとを教えなかったのか。
「祈りました。こころを砕いてきました。
昼も夜も眠らず、
幼子たちを見守り、
きまりごとを教えました。
わたしの花、わたしの良い子たちは
立派に成長しました。
一度はわたしも
この広い世界に君臨したのです……
それなのに、ああ、ボフダンよ!
愚かな息子よ!
さあ おまえの母を、
おまえのウクライナを 見るがいい。
ゆりかごを揺らしながら
おのれの不幸な運命を歌っていた母を、
歌いながら、こみあげる嗚咽を抑えられず、
自由を得る日を待ち焦がれていた母を。
ああ、私のボフダンよ!
こうなるとわかっていたら、
赤子のうちに おまえの呼吸を止めてしまったのに。
添い寝の胸で おまえの息の根を止めてやったのに。
わたしの草原は
ユダヤ人やドイツ人に 売られてしまい、
わたしの息子たちは 他人の土地で
他人のために働いている。
わたしの弟、ドニブロの水は涸れて
わたしを見棄てている。
そのうえに わたしのかけがえのない墳墓まで
ロシア人が掘り返している。
掘り起こすがよい、
他人のものを探すがよい。
そうしているあいだに
無節操な者どもは成人して、
ロシア人が わがもの顔にふるまい、
つぎはぎだらけのシャツを
母から剥ぎとるのを
助けるがよい。
人のこころを失くした者たちは
母を責め苛むことに手を貸すがよい。」
墳墓は 縦横無尽に
掘り返された。
連中はそこで なにを見つけだそうとしているのだろう。
われわれの先祖の古老たちは
そこになにを隠したのだろう。ああ、もしも、
もしも、そこに隠されているものを見つけだせたら、
子どもたちが泣くこともなく、母がこころを痛めることもなかっただろうに。
(*2)シェフチェンコ:タラス・シェフチェンコ、ウクライナの詩人、画家。1814年~1861年。農奴として生まれ、後に自らの手で解放を勝ち取り、ウクライナの農奴の解放に力を尽くす。ロシア皇帝をその詩で批判したことにより、10年の流刑。キウイには、タラス・シェフチェンコ記念キウイ国立大学がある。
2022年12月7日
菅澤 邦明
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