思てぃ通らな通信121
2023年1月5日
『おもろそうし』に日の出を表現した神謡(神うた)がある。
天にとよむ大ぬし (天に鳴響む大王)
天に鳴りとどろく太陽よ
あけもどろのはなの(明けもどろの花の)
夜明けの姿が花の
さいわたり(咲い渡り)
咲き渡っているようで
あれよ みれよ(あれよ 見れよ)
あれよ、見よ、
きょらよ(清らやよ)
清らかなことよ(美しいことよ)
註:『おもろそうし』(1531~1623)13巻「いちいではふへのとりの節」
このイメージを持って、今年の初日の出は辺野古の浜へ行こうと決めていた。神謡のような日の出の一瞬に、過去も未来も考えずにただその瞬間に集中したいと思った。おまけとして、座り込み仲間との出会いを期待した。日の出前の薄ぼんやりとした中での挨拶は一瞬だけど心が和むからである。
ここ3年程コロナのため、辺野古の浜でのイベントは公表していない。でも、今日は、何名か集まり、ブルーシートの上にはお香、お酒が置いてあり、日の出と共に祈りが唱えられた。
初日の出は「明けもどろの花」ではなかった。雲間から一瞬の閃光が見えたぐらいであった。でも、目的は達した。
帰り、運転しながら、浜の様子を思い出しながら俳句をひねった。
元旦やまた戦前の始まりや
初日の出、なぜか雲間に隠れけり
家に戻れば元旦の新聞が届けられていた。防衛省のシンクタンクである、防衛研究所の提言が「中国と長期戦想定」と、1面の横見出しとして大きく載っていた。縦見出しは「残存兵力で海上阻止」「防衛研究提言 沖縄攻撃を前提」とある。
これが元旦のトップ記事かあ…。憂鬱。
遅れて届いた朝日の新聞の1面トップは、2015年のノーベル文学賞作家のアレクシエービッチのインタビューである。琉球新報もこんな粋な記事が欲しかったな。
インタビューの見出し題は
「誰もが孤独の時代、人間性を失わないで」
である。ロシアのウクライナ侵略は、遠い異国の出来事ではなく、離れている我々にも影響が及んでいるという。
その通りである。戦争が出来る体制へと急ピッチで進んでいる。防衛費増額で政権からは増税の声が出ている。物価もあがり、ミサイルが、戦闘機が、潜水艦が・・・などと、危機を煽る話が耳に飛び込み来る。
アレクシエービッチは言う、
「憎しみという狂気が世界であふれています。それは、伝染するようになりました。紛争が起きていない国でさえも、似たようなことが起こっています。
私たちが生きているのは孤独の時代と言えるでしょう。私たちの誰もが、とても孤独です。文化や芸術の中に、人間性を失わないためのよりどころを探さなくてはなりません。(中略)
近しい人を亡くした人、絶望の淵に立っている人のよりどころとなるのは、まさに日常そのものだけなのです。例えば、孫の頭をなでること。朝のコーヒー一杯でもよいでしょう。そんな、何か人間らしいことによって、人は救われるのです。」
とある。これでわかった。私の元旦の初日を見ようとする衝動は私の魂が救われたかったのだ。
それはともあれ、後先が逆になり、新年の挨拶が遅れました。
今年も、若水を飲み、すでぃかえり(孵、脱皮し)、素敵な空間を共有したいものですね。
沖縄県読谷村の富樫 守さんが、月に約2回ほど発行されている通信より
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