(前週よりのつづき)
事故当時18歳以下の若者たちの甲状腺検査では、現在338人(2024.3.31現在)が甲状腺がんとその疑いとなっているが、集計から漏れている事例が40件近くあることが分かっている。県民健康調査検討委員会は、多発を認めてはいるが、原因はスクリーニングや過剰診断であり、原発事故との関連は考えられないとしている。一昨年、甲状腺がん罹患当事者の若者たちが、東京電力に損害賠償を求める裁判を提訴した。
事故後に損害賠償裁判をはじめ数々の裁判が提訴されたが、国の責任は認められず賠償額や範囲も制限された。刑事裁判では東電旧経営陣の責任は1審、2審とも「全員無罪」となっている。子どもたちが安全な場所で教育を受ける権利を主張した脱被ばく子ども裁判、被災地だけが年間20ミリシーベルトの被ばくを強要されることに異を唱えた20ミリシーベルト基準裁判、避難住宅を退去できない避難者を福島県が2倍家賃を請求した挙句に裁判に訴えた追い出し裁など、いずれも裁判所の判断に行政への忖度の疑問を抱かざるを得ない。最高裁判事と東電の癒着がジャーナリストの取材で明るみに出た。核の問題は司法の独立をも脅かすのだろうか。
2014年に制度化された福島復興加速化計画に位置付けられた「福島イノベーション・コースト構想」には、莫大な復興予算が投じられ、事故前にはなかった多くの最先端技術を開発する大規模な施設が次々と建設されている。例えば南相馬市のロボットテストフィールド、浪江町の水素エネルギー研究フィールド、楢葉町の遠隔技術開発センター、富岡町の廃炉国際共同研究センター、田村市の完全閉鎖型植物工場、大熊町、葛尾村のサバやエビの陸上養殖工場などで、まだまだ沢山ある、そこには東電をはじめとした原子力関連企業や研究施設も多く、再び利権が巡っている。被害者の望む復興との大きな乖離を感じ
ざるを得ない。
またイノベーション・コースト構想の司令塔と位置づけられるF-REI「福島国際研究教育機構」なるものの建設が今年から開始された、最初の7年間で1千億円が投じられる。ロボット、創薬医療、農林水産業、エネルギー、放射線科学の研究開発。放射線の産業利用、原子力災害に関するデータや治験の集積と発信など。福島が、復興のための予算を使い、産官学連携による一大軍事産業基地になるのではないかとの懸念の声もある。
福島のイノベやF-REIがモデルとするのが、アメリカハンフィールド核施設近辺の繁栄だ。学生たちをハンフィールドに見学に連れて行ったり、ハンフィールドの住民組織「トライデック」をまねて「浜通りトライデック」なども組織されている。ハンフィールドとはアメリカワシントン州にある、長崎に落とした原爆の材料プルトニウムを製造した工場がある核施設。甚大な放射能汚染を、コロンビア川をはじめとして周辺に及ぼし、多くの人に健康被害を与えた。原子炉の閉鎖後は、廃炉や除染の起業や研究施設が集中し、周辺地域は人口が倍増し生活水準が格段に上がった。しかし、高濃度の放射性廃液の固化は失敗し続け、タンクからの漏洩や、周辺地域の汚染は続いている。周辺地域のリッチランドでは、高校の校章が「きのこ雲」だったり、原子力関連の名前がついたビールが販売されたり、「戦争を終わらせ、アメリカ国民を守った」として、原爆を礼賛する傾向は未だに根強い。このようなことは一切紹介せずに、繁栄ばかりを強調する。
(次週につづく)
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