(前週よりのつづき)
こうした、東電福島の事故での、「予見不可能」「想定外」に対して、武藤さんの書く「地を這うようであった」「私たちは粘り強く闘った」の根底にあるのは、武藤さん自身が、この事故まで、そしてこの事故の後も「…人間はこの地球上において、動物、植物、あらゆる生きものたちと、直接・間接のきわめて複雑な相互依存関係にあること」、その関係の驚きや喜びこそが生活そのものであったことに根差しています。
ですから、自然の営みに対し、どんな意味でも「想定外」はあり得ないのです。
しかし、東電福島でまことしやかに語られ、刑事告訴に対して、2025年3月6日に「全員無罪」とした最高裁の判決も、その根拠とされる「想定外」は、そもそも、想定の意味をはき違えています。
その「はき違え」は、事故前まで東電が想定していた重大事故の位置付け、重大事故の想定すらしていないことから明らかです。即ち、重大事故はそれが起こってしまった時、どんな意味でも対応・対策は不可能であること、だから想定しなかったのです。
これは、たとえば「独立行政法人、原子力安全基盤機構」の「原子力防災概説」の中でも、事故は「想定」されていますが、「設計基準事故」については、「止める」「冷やす」「閉じ込める」となっていますが、事故が「設計を超える」ないし「設計を大幅に超える」場合は「放射性物質大規模放出」を「想定」しています。
しかしこの「原子力防災概説」はその序、「目的」で、「原子力緊急事態が発生した場合」について、以下のように言及しています。
「…原子力安全・保安院(以下、「保安院」という。)の緊急時対応センターや現地の緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)において、保安院等の国の職員が防災活動に従事することになる。本書は、これらの原子力行政にかかわる国の職員が原子力防災活動を体系的に理解し、活動に携わる上で必要とされる基本的な知識を習得することを主な目的としている。また、地方公共団体や事業者等の原子力防災関係者にとっても理解の助けとなるものである」。
そして、その為の「原子力発電所の安全設計」でも、「放射性物質の放出防止とそれぞれの厳格な対策」「周辺公衆に著しい放射線被ばくを与える放射性物質の放出を防止する設計」「『止める』『冷やす』『閉じ込める』に関係する安全上重要な機能については、多重性や多様性等を確保し、信頼性の高いものとなっている」としています。
その「安全設計」は、「多重」「厳格」「信頼性」なものとなっているのです。
しかし、「原子力災害の様態」の「3.1.3」で「設計基準事象を大幅に超える事故事象」「シビアアクシデント」に言及しています。
そして「設計基準事象を超え炉心が大きく損傷するおそれのある事態が発生した」場合にも、「シビアアクシデントに拡大した場合もその影響を緩和する」も、具体的に示されています。
「…消火水系や制御棒駆動水圧系等を活用して原子炉や格納容器内に注水する対策、外部電源や非常用ディーゼル発電機の機能が失われた場合に、隣接する原子炉の非常用ディーゼル発電機から電力供給を行う対策がアクシデントマネジメントの例であり」「設計基準事象を超える万一の事態において原子力発電所の『止める』『冷やす』『閉じ込める』といった安全機能やこれらをサポートする機能を維持・回復するための各種の対策が講じられている」。
こうして、以下のようなアクシデントマネジメント策の概要が図示されています。
(次週につづく)
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