「光市事件」の、「差し戻し前控訴審判決全文」「最高裁判決全文」「差し戻し判決要旨」(全文が入手できなかった)を読みました。
「光市事件」は、第一審(広島地裁)、第二審(広島高裁)ともに“無期懲役”の判決でした。それが、“量刑不当”(刑が軽すぎる)として上告され、最高裁判所は「原判決を破棄」「広島高等裁判所に差し戻す」判決を下しました。差し戻した“理由”によれば「被告人の罪責は真に重大であって、特に酌量すべき事情が無い限り、死刑の選択をするほかないといわざるを得ない」「死刑回避に相当するような特に有利に酌むべき事情と評価するに足りない」とし、第一審、第二審が“無期懲役”とした“酌量の事情”とは別の新たな酌量の事情を示すことを求めます。この事件について、最高裁判所は「被告人の罪責は真に重大であって、特に酌量すべき事情が無い限り、死刑の選択をするほかない」と、よっぽどのことが無い限り“死刑”以外にあり得ないと決めています。ですから、“差し戻し審”は、最高裁判決で否定された以外の明確な“特に酌量すべき事情”を示さない限り、死刑を回避することは難しくなっていました。
「光市事件」の最高裁判決は、現在のこの国の死刑についての裁判所(最高裁)の取るべき方向も示しています。「死刑は、究極の峻厳な刑であり、慎重に適用すべきものであることは疑いがない。しかし、死刑制度を存置する現行法制のもとでは、犯行の罪質、動機、態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性・結果の重大性殊に殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の状況等各般の状況を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に、死刑の選択をするほかないものといわれなければならない」。これが、裁判所が死刑判断をする場合の“基準”ということになります。
こうして最高裁としての“基準”を示し、「光市事件」の高裁判決について、それを破棄し、高裁に差し戻します。「量刑に当って考慮すべき事実の評価を誤った結果、死刑の選択を回避するに足る特に酌量すべき事情の存否について審議を尽くすことなく、被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑を是認したものであって、その刑の量定は甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義と反するものと認められる」。で、「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるかどうかにつき更に慎重な真理を尽くさせるために」広島高等裁判所に差し戻すのです。“酌量すべき事情”をなんとかさがし出したその酌量すべき事情が、それには当らないから、“刑の量定は甚だしく不当”として差し戻されたのですから、更に別の酌量すべき事情を立証するのは極めて困難であった結果、2008年4月22日の差し戻し控訴審判決は被告人の元少年に死刑の判決を下します。
「光市事件」の裁判は、一審判決が“無期懲役”となり、検察が“量刑不当”“死刑”を求めて控訴し、二審判決も無期懲役を支持し、それを不当として検察が上告し、最高裁はその無期懲役の判決を破棄しました。その判決で、最高裁判所は、現在のこの国の死刑の“基準”を示すことにもなりました。示された基準によれば、「光市事件」の場合、動機、犯人の年齢、前科など、酌量すべき事情が無かったわけではありませんが、最高裁の差し戻し判決、差し戻し審の判決では、全く酌量されることはないばかりか、“犯行後の状況等”のことで、徹底的に断罪されることになります。「犯行の動機や経緯に酌量すべき点は微塵(みじん)もない。冷酷、残虐にして非人間的な所業である」「元少年は、死刑を免れることを企図して旧供述を翻したうえ、虚偽の弁解を弄(ろう)しているというほかない」「むしろ被告人が、当審公判で虚偽の弁解を弄し、偽りと見ざるを得ない反省の弁を口にしたことで、死刑選択を回避するに足る事情を見出す術(すべ)もなくなったというべきである」(以上、差し戻し審判決要旨)。
人あるいは人の心が、全く完全に悪であるいは善である以外のものが微塵(みじん)もないというのは、およそ信じ難い事です。全く逆で、“酌量すべき事情”はそれなりにあるけれども、たとえば“社会的影響”などが考慮された結果死刑判決になったというのが事実に近いのです。「光市事件」の元少年は自ら口にしてしまったことを含め動機を全く認めてしまえば、"酌量すべき事情"はなくなって死刑になります。あるいは、「謝罪や反省を口にすること自体、遺族を愚弄するものであり」であるから"酌量すべき事情"は全くなくて死刑になります。18才の少年に限らず、人の振る舞いには自分でも説明のつかないことが多々あります。そして、上手く説明したことの中にうそもあれば、うその中にもいくばくかの真実があったりします。“微塵(みじん)もない”などということはあり得ないのですが、微塵も無いと断定することでしか下せなかった死刑判決です。
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