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2008年09月01週
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 8月13日に、京都で浜田寿美男さんの話を聞く機会がありました。本来の仕事(奈良女子大学教員及び付属幼稚園園長など)だけでも忙しいのに、“鑑定書を書く仕事”がますます増えているのだそうです。浜田寿美男さんのもう一つの仕事は、刑事事件の被告人の警察・検察調書を“鑑定”し、その鑑定書を書くことです(ほとんどすべて無報酬なのですが)。密室の取調室で作られた、警察・検察調書は、多くの場合取調べた警察官、検察官が被疑者を犯人だと決め付けた上での“作文”だったりすることがあります。例えば、その被疑者が子どもであったり、障害者であったりする場合、たやすく全く一方的に調書を作文してしまうことも可能です。その結果有罪になった、あるいは不利な状況にある被告・被疑者の調書をくまなく読んで作られる、浜田寿美男さんの鑑定書は、判決に大きな影響を持つことがあります。およそ30年前、西宮市の甲山学園で起こった事件の場合、障害を持った園児の証言で、“犯人”が逮捕・起訴されることになりました。この時の浜田寿美男さんの園児証言の鑑定書は、犯人とされた山田悦子さんの無罪を証明する大きな力になりました。この時、園児証言についての浜田寿美男さんの鑑定書で貫かれていたのは、障害を持った園児を特別視しないという考え方でした。甲山学園事件の園児証言調書は、自閉的な傾向を持つ園児の特殊な記憶力を前提にすることで、証拠能力があるとされ、山田悦子さんは逮捕・起訴されました。浜田寿美男さんは、どんな証言であっても、“何時”“何処で”“誰が”の整合性がなければ証拠たり得ないというあたりまえのことが、園児証言からは読み取れないことを克明に鑑定しました。その鑑定書が大きな影響力を持って、山田悦子さんは神戸地裁の第一審で完全無罪の判決になりました(それで終わらなかった甲山事件のことは、「甲山事件・えん罪の作られ方」上野勝、山田悦子を参照)。
8月13日には、そんな現在の仕事のことと、専門とする子ども理解のことで“なるほど!”とうなずかされる、いい講演のいい言葉のいくつかを聞くことができました。
 「子どもの一人前を提供して生きさせてきた」
 「背中に生活を背負って子どもは生きていた」
 「50年前子どもは生活者だった」
「人(子ども)はもっぱら守られながら育っているのではな
 い」
 などがそれです。
 

 子どもは、生活の多くを大人に依存していますが、だから“半人前”ではなく、子どもは子どもにしかない“一人前”を期待されて生きていた、というのが浜田寿美男さんの子ども理解です。例えば、小豆島で生まれ育った自分の子ども時代をふり返ってみる時、“お兄ちゃん”だった浜田寿美男さんは、弟や妹をおんぶして家の手伝いをすることがあったそうです。その時の“お兄ちゃん”は、ただ手伝っていたのではなく、「背中に生活を背負って生きる子ども」として「子どもの一人前を尊重されて」生きていました。同時に、自分をさらけ出すという危険を犯しながら、そのことで成長する、成長が促されていることを大人は了解していました。守られながら、守られなくても生きられる時の準備をしていたのです。
 

 2008年9月1日の新聞の隅っこに「『早寝早起き』横断幕焼ける」という小さな事件の小さな記事を見つけました。正確には「『早寝早起き』横断幕焼ける 伊丹中学校で1日午前0時50分ごろ、兵庫県伊丹市清水4丁目の私立中学校のフェンスにかかっている横断幕の一つ(縦90センチ、横9.5メートル)が燃えているのを通りかかった人が見つけ、110番通報した。火はすぐに消し止められ、けが人などはなかった。伊丹署や学校によると、道路沿いのフェンスに部活動の成績などを記した8本の横断幕が掲げられていた。燃やされた横断幕は地上約3メートルのところにあり、北中学校区のスローガン「早寝 早起き 朝ご飯」が書かれていた。(朝日新聞9月1日夕刊)」という事件でした。その北中学校区のスローガン「早寝 早起き 朝ご飯」のいずれも、大切でなくはありません。しかし、このスローガン(標語)は、対象となっている中学生ぐらいの子どもたちが生活する今の社会の現状からそこそこかなりかけ離れている現実が見落とされています。いいえ、今の社会の状況からずいぶん、うんとかけ離れたスローガンなのです。繰り返しますが、「早寝 早起き 朝ご飯」のいずれも、大切でなくはありません。しかし、例えば子どもたちの極々身近にある今の社会の現状は、“早寝 早起き”をしないように、いろいろ、あれこれ仕掛けられています。世の中の多くの事が、一晩中人を眠らせない仕掛けを競われていたりします。それが24時間営業のコンビニエンスストアであったり、テレビであったり、ということを仕掛けている大人の社会が、もし自分のこととして“早寝 早起き・・・”などと言えるとして、そのことに矛盾を感じないとすれば、この大人社会と大人は、とんでもなく鈍感ということになります。
 

 スローガンの横断幕を焼いた事件が正しいわけではありませんが、気が付いたほうがいいのは、大人の一人前と同じくらい子どもの一人前も尊重されなければならないこと、スローガンで“早寝 早起き”を言う前に、今の社会の現状をその方向に修正することの方が先であるように思えます。
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