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2008年10月02週
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 堀田善衛の終戦直後の上海滞在中の日記が見つかったことが紹介されていました(2008年10月4日、朝日新聞)。堀田善衛の書いたものは、30〜40年前に読み始めて、亡くなった10年くらい前まで、断続的に読んできました。「広場の孤独」などの小説、「歴史と運命」などの評論、そして全4冊の「ゴヤ」の伝記がきっかけでスペインに関心を持つようになりました。スペインを舞台に、キリスト教の“異端”のことを書いた「路上の人」や「カタロニヤ讃歌」などで、スペインがずいぶん“山”の国であることを知るようになりました。
 

 その堀田善衛の“上海日記”の一部が掲載されている「すばる、11月号」(集英社)で、思いがけず一編の小説を読むことになりました。「灰色猫のフィルム」(天埜裕文、第32回スバル文学賞、受賞作)です。
 「母親の腹は柔らかかった。ゴムの塊のような感触を想像していたが粘土に近かった。肉の弛んだ粘土のような腹を幾つかの穴が開いた包丁が突き刺した。赤ワインに似た色の液体がシャツに滲んでいた。白いシャツにどす黒い赤が鮮明に染まっていた」で始まったりする、読む気を萎えさせる小説なのですが、とりあえず読んでしまいました。以下、母親を刺し殺した“青年(だと思う)”が“物語りを物語る”のを大急ぎで読んでしまった大急ぎの感想文です。青年は、母親を刺し殺したことについて、「母親を殺したんです」としか言いません。最初、母親を殺した時も、最後に自分で110番することになる(らしい)時も、その理由が語られることはありません。“動機”を語らないで、母親を殺した主人公を通して感じられた現実(今という時代の現実)が、小説「灰色猫のフィルム」なのです。そうして感じられた現実は、“読者”が生きる現実そのものであったりします。それが煮詰まる場合であっても、薄くなったりする場合であっても、今という時代の現実のように読めました。そうして青年を通して感じられていく、今という時代の現実は時にはあわただしく、時にはうすっぺらさを隠そうともしない現実でもあったりします。
 

 青年が、今という時代の現実に踏み出していくきっかけになったのは「母親を殺す」ということでした。どうであれ人の生きる場所は今という時代の現実です。内に対して、それは“外”の世界ということになります。いきなり“外”ではなく、行きつ戻りつしながら、そして必然の力に押されたり引き寄せられたりすることで、人は今という時代の現実、“外”で生きて生き延びることを可能にします。もし、行きつ戻りつが許されなくて、必然の力に押されたり引き寄せられたりの機会を逸することになると、そこから先見つけにくくなります。「灰色猫のフィルム」は、“外”で生きられなかった、引きこもりの青年が“外”に出て行く物語です(たぶん)。そして、その時に払う代償としての“母親殺し”なのでしょうが、それに近い代償を今という時代の現実は、あれこれ払っているように思えます。この国では、おびただしい数の大人が自ら命を絶っています。それが年間に30,000人を越えるということが何年も続いています。自ら命を絶つということでは、内向きの代償のように見えますが、そのことで示唆されているのは“外”で生きられなかった人の事実のように思えます。「灰色猫のフィルム」の青年は「聞こえますか?母親を殺したんです」ととても自然に“外”に向って呼びかけます。そうして“自然”に呼びかける青年の声は、“外”には届いていなかったりします。というように著者は描いているのだと思います。物語の青年は「母親を殺しました」を始まりにしてしか“外”に出られませんでした。そして“外”で生きられない人を、おびただしくこの国の社会が抱え込んでいます。それは、行きつ戻りつしながら、必然の力に押されたり引き寄せられたりしながら人は生きて、生き延びるものであることを、この国の社会が失ってしまった結果です。
 

 「灰色猫のフィルム」は、読む気を萎えさせずにおかない始まりで、更に萎えさせる場面の続く物語でした。でしたが、気が付いたら読み終えていました。
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