映画「グリーン・ゾーン」(ポール・グリーングラス監督、マット・デイモン主演)がおもしろいと聞いて、見ることになりました。2003年に米国がイラク戦争を始めたのは、イラクの“大量破壊兵器、生物・化学兵器”の存在に確証があるというのが理由でした。米国は、戦争が始まって間もなく首都バグダットを占領、勝利宣言をしますが、戦争の理由でもあり確証があるとしていた“大量破壊兵器、生物・化学兵器”は見つかりませんでしたし、更にそんなものはもともと無かったということも、早々と認めることになりました。なのに、米国によるイラク戦争・イラク占領は今も続いています。そのことが主題で、もともと無かったし見つからない大量破壊兵器、生物・化学兵器探しのことを描くのが映画「グリーン・ゾーン」です。「グリーン・ゾーン」は、たとえば“カーナビ”が米軍の戦争の道具であり産物であるなどの事も、余すことなく描きます。大量破壊兵器、生物・化学兵器を探しまわる米軍の様子は、カーナビで逆探知している司令部が克明に追いかけ、そのことの“ウソ”を追跡するロイ・ミラー(マット・デイモン)の部隊も、そのカーナビの追跡装置で、バグダットの街の裏通りの更に裏まで、追い詰められていきます。そうして、大量破壊兵器、生物・化学兵器の事も見つかるはずのない“事実”が暴露されても、米国のイラク戦争・占領は今も続いていて、米軍の死者は4404人です(2010年5月現在。ちなみに、ブッシュ大統領が、イラク戦争の勝利を宣言した、2003年4月30日までの死者は139人でした)。
沖縄普天間基地の移設先を同じ沖縄の辺野古から国外、県外に移すことを目指して8ヶ月、移転先は元の辺野古になってしまいました。多分、米国を相手にする時のこの国の“外交”が問題にならないくらい甘かったのだと思います。“国家”というものは、ありもしないものをあるといって、そのことのウソがばれても平気で戦争を続けることを、時としてはします。たとえば、パレスチナの人たちは、ガザで、ヨルダン川西岸で、東エルサレムで、生活はおろか生存のぎりぎりの条件さえイスラエルに奪われるということを強いられて半世紀以上になります。そのイスラエルが“正義”を、あらゆる面で後押しをしてきたのが米国です。そこに貫かれているのは、もともと存在しなかった大量破壊兵器、生物・化学兵器を理由に仕掛けられたイラク戦争と同じ米国の論理です。力が“正義”なのです。
という米国を相手の“外交”で、普天間基地の国外・県外移設を目指して交渉しましたが、ほぼ全く何一つ通すことはできませんでした。米国が相手である時の外交が、米国相手の戦争であることを何一つ考えなかったからです。例えば、決まっていた辺野古への移設を、2010年5月末と期限を切って交渉に臨みましたが、手の内をさらし過ぎなのです。相手は映画「グリーン・ゾーン」の米国です。ありもしない大量破壊兵器、生物・化学兵器をあることにして戦争を始め、無かったことがばれてもイラク戦争・占領を続ける国なのです。その米国の戦争・占領の軍隊を訓練する基地が、沖縄に置かれることになったのは、沖縄が太平洋戦争の戦場になったからです。そこでは、容赦のない日本軍と容赦のない米軍とが闘って、おびただしい人の血が流され、中でも10万人を超える沖縄の人たちの血が、容赦なく流されることになりました。戦場になった沖縄戦争が終わった後に残されたのが、米国による容赦のない沖縄の占領、米軍基地の存在でした。しかも、その存在のためだったら、むさぼれる限りのものをむさぼるのが米国のやり方でした。それにゆずれる限りゆずったのがこの国でしたから、外交の戦争では扱いやすい相手、日本なのです。それだけではなく、イスラエルを後押しする米国、イラク戦争・占領する米国は、沖縄の米軍基地をめぐる相手、日本に対しても、同じように容赦はしないし、仕える手段はすべて使います。たとえば、外交の戦争の相手である国の首相や党の代表のスキャンダルなど、仕えるものは何であっても使って、陰にひなたにゆさぶりをかけることがあったとしても不思議ではありません。
映画「グリーン・ゾーン」は、“事実”を描きますが正解はありません。米国に限らず外交とその交渉は、そもそも正解ではなく、事実を見つめることから始めて、一つ一つ闘うようにして地歩を築いて行くものなのです。
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