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小さな手大きな手

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2011年02月01週
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 ふと手にすることになった「須賀敦子が歩いた道」(とんぼの本、新潮社)に登場する人たち、場所などのことで、改めて須賀敦子を、ぽつりぽつり読んでいます。中でも「須賀敦子が歩いた道」と重なる部分の多い「時のかけらたち」や、「トリエステの坂道」を、一晩に一章ぐらいゆっくりと読んでいます。その日によって、ふとんに入り込む時間は異なっていますが、4時間ぐらいで目が覚めます。たとえば、少し早い11時頃だと、午前3時には必ず目が覚めます。部屋の寒さのことだとかで、しばらくは起き出すのをためらっていますが、どうせ寝られないのだからと、あきらめて机の前に座ることにします。しばらく前から、そんな時に読んでいるのが、「時のかけらたち」、「トリエステの坂道」、で加えて「不思議な羅針盤」(梨木果歩、文化出版局)も同時に読んでいます。どちらも、いい文章で、読み応えがあるものですから、ゆっくり味わうようにして読みたくなる本なのです。「不思議な羅針盤」の「やわらかく、いとけなきもの」の項は、たとえば今どきの親子のことが話題です。そのことで、少しは嘆きますが、中心は少しも外さずに、古代歌謡の「総角」(あげまき)を通して、子を思う親の心の豊かさを紹介し、人はそのようにして生きてきたことを紹介します。総角の元歌は省きますが、児童文学作家、桜井信夫の訳だと次のようになるのだそうです。
  
  かわいい子を
  かわいい子を ひとり
  かわいい子を わざと
  とおい日の みまわりに
  やぁ
  ひとりだちよ
  いかせたものの
  やぁ
  日がないいちにち
  こころのこりよ
  こころのこりよ
   あいさ あいさ
  あいさ あいさ
   あいさ あいさ

「子を思う親の気持ちは古代から変わらない、と言いたいけれども、最近その確信に疑問を突き付けられる」とは言うものの、しかし、「変化は仕方がない」そして「子を思う親の気持ちで、若い人を見つめようと思う・・・ときどき」と書いています。
 「時のかけらたち」や「トリエステの坂道」などの須賀敦子は、亡くなってから10年以上たちますが、今もたくさんの人たちによって読まれています。
 「トリエステの坂道」で、詩人、ウンベルト・サバの古書店「ふたつの世界の書店」のことなどを、「・・・押し殺せないなにかが、私をこの町に呼びよせたのだった。その《なにか》は、たしかにサバの生きた軌跡につながってはいるのだけれど、同時にどこかでサバを通り越し、その先にあるような気もした」と書かれているのを読むと、塔gリエステ狽ノ、一度も行ったこともなく、全くトリエステを知らなくても、しかし、その街の歴史も、ただならないことを思わせられます。サバとトリエステについて、「サバのなにを理解したくて、自分はトリエステの坂道を歩こうとしているのだろう。さまざまな思いが錯綜するなかで、押し殺せない何かが、私をこの町に呼びよせたのだった。《なにか》は、たしかにサバの生きた軌跡につながっているのだけれど・・・」と書かれているのを読むと、街であれ人であれその広がりや奥行きにしみじみと納得することになるのです。
 先日、知人の誕生日に一緒に飲んだ居酒屋で、“お祝”に須賀敦子訳のウンベルト・サバの詩を読みました。
  
  うつろう季節が、太陽と影とが
  世界をさまざまに変えている、にぎやかに
  いろどり、雲が道をふさぐ。

  とりどりの変化を、ぼくの目は
  かぎりなくいつくしんできたのだ、今日、
  悲嘆に身をまかすべきなのか、わからない。

  この事実をまえに降参すべきなのか。
  これほど悲しいというのに、すばらしい天気。
  ただ、ぼくの胸には、陽が照り、雨がふる。

  ぼくは、ながい冬を春に変えることもできる。
  陽のあたる道は、金色にのびる一本すじ、
  自分にむかって夜のあいさつをしてみたり。

  ぼくの場合は、霧も晴天もぼくのなかだけにある。
  あの完璧な愛も、あるのはぼくのなかだけ。
  そのために、苦しみはするけれど、泣きはしない。
  目と心さえあれば、ぼくはいい。
                     (孤独)

 心豊かな、その知人の「あなたのことがサバのこの詩では書かれているのですよ」、たとえば「・・・ただ、ぼくの胸には、陽が照り、雨が降る。」には、更に「・・・目と心さえあれば、ぼくはいい」にはと、余計なことを一言付け加えて。
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