「2つの偶然『最悪』を救う」(3月8日、朝日新聞)と書かれていた偶然と最悪について、ずっと考え込んでいました。
“最悪”は、東京電力福島第一原発の回避することになった「最悪」です。「4号機の使用済み核燃料の過熱・崩壊」「水が減って核燃料が露出し加熱すると、大量の放射線と放射性物質を放出。福島第一だけでなく、福島第二など近くの原発も次々と放棄。首都圏住民も避難対象となる最悪の事態につながると恐れられていた」(同前、朝日新聞)。
「・・・3月15日6時から同日6時10分にかけての頃に4号機R/Bも爆発し、4号機R/Bの天井や壁が損傷した」「4号機SFPには、使用済燃料1331体、新燃料204体が貯蔵され、同日時点の崩壊熱は、2.26MWと評価された」(平成23年12月26日、「東京電力福島原子力発電所における事故調査・実証委員会、中間報告(政府事故調)」)。すべての電源が喪失し、更に前述のような状況で、起こっても不思議ではなかった「最悪」が、4号機の使用済核燃料の過熱・崩壊でした。「最悪の事態です。そのため、私は『4号機の使用済み核燃料プールが煮詰まれば、(ステロイド剤で)強化されたチェルノブイリになる』という表現を用いたのです。10~15年分の核燃料が大気中で燃えるという世にも恐ろしい状況です」「大気圏内で行われた歴代の核実験で放出されたものを合わせたほどの大量の放射性セシウムが、4号機のプールには眠っています。原子炉は原子爆弾よりはるかにたくさんの放射能を抱えているのです。4号機の使用済燃料プールは、今でも日本列島を物理的に分断する力を秘めています」(「福島第一原発―真相と展望」マーニー・ガンダーセン、集英社新書)。ここでも言及されている「最悪」が回避されたのは偶然だったというのが、「2つの偶然『最悪』を救う」(同前、朝日新聞)です。
「偶然」は、「震災直前の工事の不手際」、「意図しない仕切り壁のずれ」だったのだそうです。「4号機は(一昨年11月から定期点検に入り、シュラウドと呼ばれる炉内の構造物の取り換え工事をしていた。工事は、原子炉真上の原子炉ウェルと呼ばれる部分と、放射能をおびた機器を水中に仮置きするDSピットに計1440立方メートルの水を張り、進められた。ふだんは水がない部分だ。ところが、シュラウドを切断する工具を炉内に導く補助器具の寸法違いが判明。器具の改造で工事が遅れ、震災のあった3月11日時点で水を張ったままにしていた」ことが一つ目の“偶然”です。
津波ですべての電源を喪失し、冷やせなくなった4号機の使用済燃料プールに、“偶然”工事の遅れで水が張られていたDSピットの計1440立方メートルが、“偶然”燃料プールと隣りの原子炉ウェル側からプールに計1000トンの水が流れ込んで“偶然”燃料を冷やすことが可能になって「最悪」を回避することになりました。
「補助器具の寸法違いが判明。器具の改造で工事が遅れ」、震災4日前に抜き取る予定だった水が残っていたという“偶然”と、「仕切り壁がずれて隙間」ができるという“偶然”が重なって流れ込んだ水ですべての電源が喪失し、冷やせなくなっていた使用済燃料プールの冷却が可能になり、偶然、「最悪」を回避することになった、ということなのです。
という、“偶然”の理解というか解釈は、少なからず勝手すぎるように思えます。たとえば、「補助器具の寸法違い」は、たかが補助器具だからということではなく、まかり間違えば「最悪」になってしまうものを扱っているにもかかわらず、細部を軽視、ないし疎かにしていたことの証拠です。あるいは技術の過信の結果「最悪」の一歩手前まで行ってしまったという意味では“偶然”ではないのです。常に「最悪と隣り合わせ」であるはずの原子力発電所で細部を軽視した結果が、「最悪」にはならなかったとしても、最悪に近い最悪の現実をおびただしい人たちに強いています。
2つ目の偶然は、仕切り壁がずれたすき間から、ウェル側の水がプールに流れ込んだ“偶然”です。だからと言って、仕切り壁が偶然ずれた訳ではありません。今迄のところ、仕切り壁がずれたのは、地震なのか、1メートルの厚さの建物を吹き飛ばした爆発を誘引したのか分かりませんが、そのいずれであったとしても、仕切り壁がずれて隙間ができたりすることが偶然起こってはならないのです。「最悪」ということには、決してならないことの条件があって初めて許されるのが、原子力発電所であり、その稼働です。
ですから、「最悪」が、過失や“事故の結果”回避されたのに、それを偶然と言ってしまう感覚こそが、東電福島の事故を引き起こすことになりました。「最悪」が、過失や“事故の結果”回避されたのだとすれば、偶然ではなく「神の導き」なのです。(金曜日の関西神学塾でも、“偶然”のことが話題になり、講師の勝村弘也さんによれば「神の摂理」、たのしい学習塾の渡辺大夢君によれば「奇跡」でした。偶然では余りにも安易なのです)。
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