イエスが「神の国」と言う時、それが地上の営みから遠い、あるいは未来のいつかではなく、生きている今、そのものであると理解していたように思えます。「イエスにさわっていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてきた。ところが、弟子たちは彼らをたしなめた。それを見てイエスは憤り、彼らに言われた、『幼な子らをわたしの所に来るままにしておきなさい。止めてはならない。神の国はこのような者の国である。よく聞いておくがよい。だれでも幼な子のように神の国を受け入れる者でなければ、そこにはいることは決してできない』」(マルコによる福音書10章13~15節)。もちろん、その場合の「神の国」は、そこにある現実そのものと理解している訳ではありません。10章13節以下で、子どもを抱いて「神の国はこのような者の国である」という時、もう一度「だれでも幼な子のように神の国を受け入れる者でなければ・・・」と言い変えているところは重要です。神の国は、そこにしかない道理が貫かれていて、更にその意味での「神の国の道理」を受け入れることが、イエスの示す神の国の条件であることを意味します。イエスは別に「財産のある者が神の国にはいるのは、なんとむずかしいことであろう」とも言っています(10章23節)。このやりとりに、ペテロが割って入った時、イエスは更に以下のようにも言っています。「『よく聞いておくがよい。だれでもわたしのために、また福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子、もしくは畑を捨てた者は、必ずその百倍を受ける』」(10章29 、30節)。
こうしたイエスの言葉から、イエスが考えていたであろう神の国のことの、おおよそが解ってきます。それは、現在の地上の営みそのものであるらしいこと。あり余るほどの物をもてあそぶ生活世界ではあり得ないこと。家族などの閉ざされた世界ではなく、広く共同体として開かれた世界であること。そして言われている「幼な子のように」は、規則や制度ではなく、受け入れ、受け入れられることによって成り立っている世界であること。地上の営みとして、おおよそこれらのことが成り立っている世界を、イエスは「神の国」と考えていて、それがマルコによる福音書のいくつかの「神の国」をめぐる言葉となっているように思えます。
そんな意味で、マルコによる福音書7章31~37節で書かれているそのことが、神の国そのものであると言えます。「・・・すると人々は、耳が聞こえず口のきけない人を、みもとに連れてきて、手を置いてやっていただきたいとお願いした」「そこで、イエスは彼ひとりを群衆の中から連れ出し、その両耳に指をさし入れ、それから、つばきでその舌を潤し、天を仰いでため息をつき、その人『エパタ』と言われた。これは『開けよ』という意味である。すると彼の耳が聞け、その舌のもつれもすぐ解けて、はっきりと話すようになった」。「神の国」は、地上の営みから遠い、未来のいつかではなく、耳が聞こえず口のきけない人と、出会うことがあれば、それを包み込んでしまう世界が、今実現することなのです。
というような、神の国の理解とつながる思いで取り組まれているのが、西宮公同教会が管理している住宅の、「放射能から子どもを守る家プロジェクト」への提供です。教会の管理する住宅、303号が空室になった機会に、兵庫県南部大地震ボランティアセンター、被災者生活支援長田センターの進めている企画に、2013年5月までの1年間、主として、放射能から一時的に避難する子どもたち及び家族の為の住宅として提供することです。お知らせするのに、少し時間がかかったりしていますが、ぽつりぽつりと利用されることになっています。小さな小さな、イエスの「神の国」の実現になればとの願いで。
別に、「小さな福島ネットワーク」と「小さな福島を支援するネットワーク」の準備を始めています。放射能で汚染された福島で「福島県の復興に向け・・・」進められている、放射能の除染とそれにともなう施設の整備のことなどは、ほぼすべて虚構だと理解しています。(見解の“相違”もあるのでしょうが、別に書いて発行している、じしんなんかにまけないぞこうほう、No.161、162、163、164号で言及している)。それらを“虚構”だと切り捨ててしまうのではなく、福島が福島であり続ける為には、放射能から避難する為の生活の場所が必要です。福島でそれは“仮の町”として提案され始めていますが、東電福島の事故のことを共有することの意志表示として、福島以外からの提案がそれをより豊かに実現するように思っています。それが「小さな福島ネット」「小さな福島を支援するネット」です。近々、その為の具体的な場所も含め提案する予定です。
ことわっておかなくてはならないのは、こうして提案される「小さな福島ネット」こそが、マルコによる福音書のイエスが語る、「だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者」の「神の国」であることです。
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