「放射線についての正しい知識を」ということで、2人の「専門家」が新聞の「全面広告」で見解を述べています。「全面広告」の「広告主」は「政府広報/復興庁、内閣官房、外務省、環境省」で、「専門家」は、中川恵一東京大学医学部附属病院放射線科准教授、レティ・キース・チェム国際原子力機関(IAEA)保健部長(当時)です(2014年8月17日、朝日新聞)。
で、「専門家」の述べる「放射線についての正しい知識」の内容についての考察は別にするとして、以下は「広告」(及び広告主)そして「専門家」についての考察です。「政府」がこんなことを「全面広告」する意図は、国民が「放射線についての正しい知識」を迷わずに持って欲しくて、その為の見解を、「専門家」に述べてもらうことにあります。それは、少なからず国民が、放射線についての正しくない知識に振り回されていることへの危惧があるかに違いありません。手元の国語辞典によれば「広告」は「広く世間に知らせること。また、その文書など」で、その具体例として「広告主」「誇大広告」「意見広告」などが挙げられ、関連する「広告塔」は「企業や宗教団体などで、知名度があって、宣伝に役立つ人物」などとあったりします(「新明解国語辞典」三省堂)。明らかなのは、「広告」は「広告主」に意図があって、それを満たす内容になるだろうということです。同じ新聞の「全面広告」の「この寝心地はスゴ過ぎる!!睡眠中の腰や肩がラクに!話題の高反発マットレスが4,980円/あっという間に2万枚突破で大ヒット!!/お一人様2枚まで!3枚目以降は19,800円となります」は、消費者の「苦情」を意識してはいますが、問題点を指摘できなくはありません。①、価格1枚4,980円「3枚目以降は、19,800円となります」が通常価格の4分の1近い超お買得価格、②、「あっという間に2万枚突破」は小さな小さな「※」印を見ると「2014年1月~現在」で、そんなにあっという間という訳ではない、③、世の中には「睡眠」が気になる人が多いのだと思う、で「広告」は「睡眠」と「腰や肩」、そして「高反発マットレス」を直結させた。しかし「睡眠」「腰や肩」が結びつく人もいるかもしれないが、結びつかない人も多いはずで、直結して「高反発マットレス」にはならない。というようなことは、誤差の範囲であるのが「広告」というものであって、「苦情対策」の手も打たれているのが、この「全面広告」です。
で、「政府広報/復興庁、内閣官房、外務省、環境省」の「全面広告」なのですが、一般に「広告」というものの、常識をわきまえていないように読めてしまえます。たとえば、「広告主」なのですが、「環境省」を代表する「広告主」は「福島県より避難されている方々」のことで、「やっぱり、金目でしょ」と言ったりしました。この「…方々」は、たとえば双葉町や大熊町が東電福島の事故で降り注いだ放射性物質が、町の大半で50m㏜/年以上の帰還困難、20~50m㏜/年の居住制限、帰還解除準備などで福島のその町に住めなくなって避難している人たちです。その2つの町に建設されようとしているのが、放射線物質を除染して発生する土壌などを、約30年間貯蔵するとされる中間貯蔵施設です。中間があって「最終処分場」のないこの計画に、町の多くの人たちは懸念を持っていますが、それを引き受けさせる切り札が金で、なんだって金で解決できる(黙らせる)と思っている政府の代表の一人の発言が「やっぱり、金目でしょ」です。同じ政府の経済産業省の副大臣は、東電福島の事故で避難している、まさしく居住権を奪われた人たちを、その元の住居(市町村)の放射線量が高いにもかかわらず、あえて戻らせてあげることが「憲法に定められた『居住の権利』だと言ったりします。
と言うのが、2014年8月17日の「全面広告」の「広告主」だとすれば、2人の「専門家」を「広告塔」に使った、「誇大広告」であることは十分に考えられます。
手元の国語辞典によれば「専門(家)」は、「その事を研究・担当するだけで、他の部門にはかかわらないこと。また、その科目・事柄」、関連する「専門馬鹿」は、「専門の知識は深く持っているけれども、世間一般の常識はほとんど無に等しい状態の人を軽蔑、あるいは揶揄して言う言葉」などがあります(前掲「新明解国語辞典」)。
「政府」の「全面広告」で見解を述べている「専門家」の一人が、中川恵一東京大学医学部附属病院放射線科准教授です。「専門家」の述べる「放射線の影響に関する深刻な誤解」の、「全身に2,000ミリシーベルトの放射線を浴びた方も多かった広島や長崎でさえ遺伝的影響はなかったと考えられる」や、「福島で被ばくによるがんは増えないと考えられる」の「国際的にも100ミリシーベルト以下の被ばく線量では、がんの増加は確認されていませんが…」などの「対象」は、「福島県より避難されている方々」です。東電福島の事故で県内外に避難している人たちは、今も10万人を超え、自主的に避難している人たちもいれば、区域が追加被曝線量で帰還困難、居住制限・帰還解除準備などとなった結果、避難している人たちもいます。一方、東電福島の事故現場で、作業にあたる作業員の被曝では、5年間で100ミリシーベルト、1年間で20ミリシーベルトを超えないことが、厳しく守られることになっています。放射線とその影響としての被曝が明らかに健康を害すると考えられているからです。「福島県より避難されている方々」にとっても、その人たちの生活・生存をおびやかしているのが被曝です。被曝をその数値をもとに、区分け及び避難指示したのは「全面広告」の「広告主」である国です。放射線の影響は深刻だと「広告主」が判断したからです。そのように「広告主」が判断したのは「放射線に関する様々な科学的データ」を保持するからであるのはもちろんです。「広告主」の選んだ「専門家」は、それは「放射能の影響に関する誤解」だと言います。自分を選んだ「広告主」が、自分の見解をこうして否定していることに気付かなかったり、無頓着であったりする「専門家」は、国語辞典の「そのことを研究・担当するだけ」の狭い了見の人だったり、「専門の知識は深く持っているけれども、世間の一般の知識はほとんど皆無に等しい」文字通り「専門馬鹿」だったりするからだと考えられます。
という、「福島より避難されている方々を対象に開催した勉強会」を「広告」したりする時の広告理解や専門家が、上記の程度であるとすれば、「政府」も「広告」も少なからず国民というものを侮辱しているように思えます。
ちなみに、もう一人の「専門家」である、レティ・キース・チェムIAEA保健部長の見解の「原子力事故が発生した地域で住み続ける人の被ばく限度は基準値である年間20ミリシーベルト」は乱暴な押し付けであり、「その水準以下で健康への影響はまったくない」は、自分の見解で引用している。一般にも認められる「放射能のしきい値はないという仮説」からすれば「影響力はある」の誤りです。
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