昨年10月から、教会で沖縄の地元紙「沖縄タイムス」を定期購読することになりました。およそ2日遅れで届く沖縄タイムスは、礼拝堂前の書架に1週間単位で掲示されています。他にもおびただしい情報が届けられる中で、沖縄タイムスも一面の見出しをながめるだけで終わってしまうことが多くなっています。以下、年末・年始に少し時間を割いて、12月28~30日の沖縄タイムスを拾い読みした感想です。
沖縄では、昨年11月の知事選挙で、普天間基地を名護市辺野古に移設する、新基地建設の可否が争点となり、新基地建設反対を公約に「オール沖縄」が支持した、翁長雄志候補が当選しました。
沖縄が、新基地反対で「オール沖縄」になり、現職の仲井真知事ではなく、翁長雄志候補を選ぶことになった、一つの始まりについて、沖縄タイムスに毎週日曜日に一面分を割いて刷り込まれている「うちなあタイムス/週刊しまくとぅば新聞」の2014年12月28日分が、しまくとぅば(沖縄語)を切り口に言及しています。2013年末、仲井真前知事は、普天間基地の辺野古移設を承認するにあたり、政府による移設の沖縄振興予算の約束に対し、「いい正月になる」と発言しました。この発言が広く沖縄県民の反発を呼ぶことになりました。その「いい正月になる」を、沖縄の「しまくとぅば」(沖縄語)の本来の意味で言及したのが「うちなあタイムス/週刊しまくとぅば新聞/第77号」)です。ちなみに、知事選挙での翁長候補の選挙公約の一つが「『しまくとぅば』の保存、普及と継承」です。「いい正月になる」は、日本風の一般的なあいさつとして沖縄の人たちは使いません。しまくとぅばのいい正月「そうぐゎち てーびる」の本来の意味ではなく極めて安易に仲井真前知事によって使われたことに沖縄の人たちは激しく反発しました。「詩人の川端信一さん(82)は、沖縄で『いい正月になる』というあいさつは、豊かな実りを願って人々が事前に祝う『予祝』の意味があると解説。『今まで恵まれなかったが正月を迎え、あらかじめ来年やってくるたくさんの福を祝う』との考え方」「琉球古典音楽野村流保存会会長で、詩人でもある勝連繁雄さん(74)は、祝賀の際に歌われる『かぎやで風』に乗せ、新年によく歌われる流歌を例に挙げる。『新玉(あらたまぬ)の 年(とうし)に 炭(たん)と 昆布かざて(くぶかざてい) 心(くくる)から姿(しがた) 若くなゆさ』(新しい年を迎えて、縁起のいい炭と昆布を飾っていると、心も姿も若くなる)」「勝連さんは、沖縄の人々にとり、新年は人生の再生や新しい出発を意味するという。『“いい正月”という言い方をされて“われわれは違うぞ。”“われわれは生まれ変われるのか”と。理屈ではなく、そういうふうに感じた人は多いと思う』と指摘する」。一方、仲井真前知事の「『いい正月』発言」は、以下の内容でした。「2013年12月25日、仲井真弘多前知事は、安倍晋三首相と普天間移設を巡り会談。安倍首相は3000億円台の沖縄振興予算の確保やオスプレイの訓練の約半分を本土で実施するための作業チームの設置などを伝えた。仲井真氏は記者団に『いい正月になるなというのが実感だ』と語り、県民の反発を呼んだ」(以上、「 」内は、「週刊しまくどぅば新聞、第77号」。
沖縄の人たちの「いい正月(『そうぐゎち てーびる』)」「豊かな実りを願って人々が事前に祝う」は、安倍首相の約束する「3000億円台の沖縄振興予算」、要するに「金」ではなく、自分たちが生きてきた過去、そして現在、未来を見据えながら、自然にかつかみしめるようにして発する言葉としての「いい正月」なのです。その過去は「沖縄戦の体験を基本にした反戦・平和思想」であり、その島の自然の豊かさと苛酷さを「沖縄の庶民が『粗食に耐えて生きてきた人々の期待と喜び』」です。現在は「新基地反対闘争の現場である辺野古のキャンプ・シュワブ前では、ゲート前に結集した抗議デモ隊が沖縄県警によって実力排除され」「辺野古の海上においては、海底ボーリング調査などのためのブイやフロートが設置・拡大され、新基地反対の意思表示をする手漕ぎのカヌー隊に対し、令状主義のなど日本国憲法、刑事訴訟法などを無視し、法的根拠もない海上保安官による暴力団顔負けの暴行・脅迫・肖像権侵害行為が続いている」「2%の沖縄に72%の米軍基地が集中する」(「島の政治的宴(うたげ)のあとで」仲宗根勇、未来・№578)。現実に対する怒り、未来は「誇りある豊かさ」であってはじめて沖縄の人たちには「いい正月」(そうぐゎち てーびる)であり得るのです。
知事選の後就任することになった、浦崎唯昭副知事の抱負は「誇りある豊かさへ尽力」です(12月29日、沖縄タイムス)。「誇りを持つことで産業が発展する、経済が発展する、教育が振興する、お年寄りが住みやすくなる、若者が働きがいがある沖縄をつくる。基本となる誇りがなくて、なんの豊かさかと思う。誇りには、発展のために基地との取引をしないことだと思う」。抱負の一つはしまくとぅばです。「県議時代にしまくとぅば条例を作った一員。しまくとぅばができた歴史の流れは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)も守っていくべきだと力を入れている。これに応えるためにも、しまくとぅばを整理するための基礎を作りたいと思っている」。
で、そんな沖縄の沖縄タイムスには毎日ほぼ1ページ分の、普通の人たちの死亡公告が掲載されています。病気で亡くなられた人の場合もありますが、90歳、中には百歳を超えて亡くなられた人の場合もあり、Oさんの場合は「…百一歳の天寿を全うし永眠いたしました。高齢者ハウスりゅうしんの医療スタッフの皆様方には手厚い介護を頂き家族一同心より感謝申し上げます」とあり、その「家族一同」が、喪主から始まって、8男までと嫁の名前、孫代表、曾孫代表、妹、義弟、義妹の名前などが列挙されています。更に、沖縄タイムスのそのページの下段には、霊苑及び墓石の新築、改修などの広告も掲載されています。たぶん、死亡公告!と、それとが同じページに掲載されていても異和感がないのは、亡くなった人たち、祖先を葬ることを大切にしている沖縄の人たちの、過去と現在と未来が、そこにも反映しているからだと思います。そんな広告の中には「耐震工法のお墓」の広告もあったりするのは、沖縄の墓は、屋根付き一体型となっていて、“門中”と呼ぶ広く一族がそこに集まって先祖を供養したりする場所にもなりますから、「耐震」も必要なのだと思われます。
*シアターセブン(サンポートシティ5F、阪急十三駅西口徒歩5分)で上映している「圧殺の海/沖縄・辺野古」を見てきました。このあたりではあまりしなくなった、魂からの怒りを形に現して生きる人たちの映画です。上映が16日まで延長されることになりました。前売りチケットをご希望の方は事務所までお申し出ください)。
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