風は ちっちゃい声で呼びかけます
風は ふうせんを空にうかべます
風は せんたくものと遊びます
風は 雨の日のかさをこわします
風は かきねをゆすります
風は 草原を走ります
風は たこを空にふき上げます
風は リンゴを落します
風は 帆をふくらませます
風は 風車をまわします
風は しゃぼん玉をそっとはこびます
風は おち葉とおどります
風は 怒って暴れることがあります
風は 呼びかけると
風は 風の声でこたえます
そんな「風」をいっぱい描いたのが「ジルベルトとかぜ」(マリー・ホール・エッツ、冨山房)です。子どもたちの大好きな絵本の多くに、いろんな「風」が吹いていることに気付かされます。
「3びきのやぎのがらがらどん」(マーシャ・ブラウン、福音館)には、風は風でも、やぎたちのそれぞれの息吹が風となって流れ、トロルはその動作のすべてから嵐を感じさせられ、川と橋にはそんなやぎたちとトロルは、自然のどこふく風が吹いており、3びきが、いっぱい食べて太る山の草原には、さわやかな風が吹いています。
「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック、冨山房)で、マックスとお母さんの間には、何やら険悪な空気(風)が流れており、ぶち切れしたマックスを風が外の世界へ押し出します。そして、マックスの「世界の風」の中で生きる冒険が始まります。マックスとかいじゅうたちの冒険の森には、自然の風があふれ、冒険の遊びを盛りたてます。遊びつかれたマックスのところに風が、お母さんのにおいを運んできます。そして、マックスをお母さんの元へ運び届けるのが風をいっぱい帆に受けたマックスの舟です。
「キャベツくん」(長新太、文献出版)を開くと、緑色のキャベツの緑色のにおいがとび出してきます。そんな新鮮で元気いっぱいのキャベツのにおいを運んでくるのが、「キャベツくん」から吹いてくる、新鮮な風なのです。
キャベツくんが あるいてくると
ブタヤマさんに あいました
「こんにちは」と、キャベツくんが
あいさつをしました
ブタヤマさんは
「フー」と いいました
かぜも
「フー」と ふいています
絵本「キャベツくん」の見開きのどのページにも、風が吹いて、鳥たちが飛ぶのはもちろん、ブタヤマさんが空を飛び、ブタヤマさんの帽子が飛び、いっぱいの風が吹いているのです。
「ピーターのくちぶえ」(キズラ・ジャック・キーツ、偕成社)に
吹いているのも風です。
ピーターは おとこのこが
くちぶえを ふいて
いぬと あそんでいるのを みました
くちぶえが なると いつも すぐ
いぬは すっとんでいきました
「くちぶえ」は人間の風で、くちぶえの音を運ぶのも風です。ピーターが、くちぶえのかわりに「ぐるぐる ぐるぐる・・・はやく はやく・・・」まわる時、ピーターのまわりで起こっているのも風です。そして、いっぱい吹いて、吹いて吹きまくって、ピーターのくちぶえが音になり風に乗って、犬のウィリーに届き、喜んだウィリーがピーターのところに、風を切ってすっとんできました。「ピーターのくちぶえ」のどのページにも流れているのは風です。
「旅の絵本」(安野光雅、福音館)は、いわゆる文章のない絵本ですが、どのページにも風が吹いています。旅の絵本の旅人が、舟をこぐ海の波は風、こぎ着いた海辺の草原の草は風にゆれています。草原と森にも、風が吹いています。収穫した穀物をふるいにかける時の女の人の周囲にも風が吹き、木の葉がゆらいでいます。村々から町々へと続く旅の、そのいずれにもさわやかな風が流れています。描かれているおだやかな人々の生活が、そんな風を感じさせるのです。そして、町々で、人々が生き生きと生活している様子を、風にひるがえる旗が風になびいて、そのことを教えてくれます。そして、そんな村々、町々を更に生き生きとさせるのが子どもたちで、子どもたちが大好きなお祭りの風に、ふうせんが空に浮かび、風に流されます。平穏に見える村の風車は、絵本のページの中では止まっていますが、風に流されるふうせんが、風車は風で回っていることを思い起こさせます。そして、夕焼けの空に、風に乗って鳥たちはねぐらに帰って行きます。
「りこうな子ども/アジアの昔話」(松岡享子編・訳、こぐま社)には、大人たちの世界では吹かなくなった、子どもたちの風、さわやかな「新風」が吹いています。あたりまえに、決まり切ったことを尊重する大人の世界、社会は、どこかで行き詰っています(しまいます)。子どもたちの、とらわれない生きた思考が、そんな行き詰まりをいとも簡単に解きほぐす「新風」が「りこうな子ども/アジアの昔話」には流れています。どんな国のどんな社会であっても、子どもたちが生きて生活するところでは起こることなのです。
9月24日、三田有馬富士公園、新宮晋風のミュージアムでは、上下左右、春夏秋冬の秋、過去、現在そして未来、紅赤そしてちょっぴりの白など、たくさんの風が集まって、風が吹きぬけて行きました。緑の中の濃い赤紫の山ぼうしの実が、吹いた風でちょこっと葉っぱの間で顔をのぞかせていました。
新宮晋風のミュージアムで、新宮晋がプロデュースしたジャズコンサートのアンケートに一日遅れで届けた短い文章です。
新宮さんの作品の人間の自然と、自然の自然、そして他の何よりも自然な音楽としてのジャズが共鳴し合う「Vol,2 風のJAZZ Let’s sing」でした。
新宮さんの作品の人間の自然「オーロラ」は、風のミュージアムの、風のジャズでそれはそれは見事に役割を果たしているように思えました。「オーロラ」を操る、あるいは「オーロラ」に操られる人たちの様子が要するに、風を操ろうとして、風に操られている人たちの様子が、風のJAZZを存分に盛り上げていたのだと思います。
佐渡さんが、トーンキュンストラーのCDジャケットに、「異なる考えや文化を持つ人同士が同じ空気の振動の中で共に生きていることの喜びを感じられる。それが音楽の持つ力だ」と、自分たちの音楽について書いていました。
9月24日(土)の風のミュージアムには、人間の自然と、自然の自然と、音楽の自然が「同じ空気」の中で、そこに居た人たちが喜び合ういい時間でした。 2016年9月25日菅澤邦明
子どもたちに、いい絵本をいっぱい読んであげてください。子どもたちとの絵本の時間は、作者が渾身の力で絵本に込めた生きた物語を共有する時間です。
必ずいい絵本を選んでください。
いい絵本を選ぶ時の目安になる、「100冊の絵本」を紹介しています。まずはこの100冊から始めて、お母さんとお父さんと子どもたちのいい絵本を見つけて下さい。いい絵本を見つけた時は、ぜひ教えて下さい。
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