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小さな手大きな手

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2016年11月02週
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 東電福島の重大事故の原子炉は、外部からの冷却、漏れ出す汚染水の処理(現実には、事故で環境中に放出された放射性物質などすべてを溜め、増え続けている)、福島県を中心に広い地域に降り注いだ放射性物質の除染(現実には、削り取ったりした汚染土壌などがフレコンバッグに詰められ、仮置きされており、それは最終の決まっていない中間貯蔵施設に運び込まれることになっている)など、今も緊急の事故対策に追われ、見通しのないまま5年8か月が経とうとしています。
 にもかかわらず、そうして追われ続ける緊急対策が「廃炉」ということで括られています。事故対策は、避難している人たちの生活保証、除染などの費用を合わせて、既に実際支払われたものを含め、20兆円を超すと言われています。その費用の大半は、東電福島の事故の後、東電福島を「特殊原子力施設」と定義したこと、及び東電の株の過半数を取得した国が代わって支払っています。
 そうして負担し、かつ増え続ける費用を国、即ち国民の負担にしてしまう、もっともらしい提案がされています。「経済産業省は、事故を起こした東京電力福島第一原発の廃炉費の負担案を有識者会議で示した。自由化で参入した『新電力』に、その一部を払わせる内容が含まれている」「後出しじゃんけんのように新たな負担ルールを設け、原発や事故と無関係な新電力にも廃炉の費用を担わせて、公平な競争と言えるのか」「福島第一の廃炉費は少なくとも、数兆円に上ると見られるが、経産省は『国民の負担増にならない形とする』と強調する」(「廃炉費の負担/原発優遇は理が通らぬ」(11月7日、朝日新聞・社説)
 この社説に、少なからず混乱が見られるのは、費用が「廃炉費」である点です。現在、いくつかの原子炉で廃炉が話題になり、工事が始まっているものもあります。しかし、東電福島に関する限り、明らかなのは廃炉ではなく、事故処理です。その事故処理も、前述のように、緊急対策に追われるのがやっとで、炉心溶融となっている事故の原子炉のことはほとんど、ほぼすべて解っていません。
 例えば、そのことの一つが、事故の原子炉の溶融した燃料の状況を探るためのロボットの開発・実験から始めなくてはならなかったりすることで、それが始まったばかりです。既に事故から5年8か月が経とうとしてやっとそんな段階です。それもこれも完全に閉じ込めることが条件で稼働させる原子力発電所で、放射性物質を閉じ込めるすべての壁が壊れてしまい高濃度の放射性物質で人が近寄ることが難しいからです。壁だけではなく、溶融した燃料は原子炉の底のコンクリートに達し、そのコンクリートも溶かしてしまっていると考えられています。更に、それを確かめるどんな手段も、現在のところ見つかっていません。確かめる為の、手段であるカメラを原子炉内に入れる為のロボットの開発・実験の段階です。
 廃炉どころではないのです。
 なのに、社説が話題にするのは「廃炉費」です。
 繰り返しますが、取り組まれているかは廃炉(費)ではなく、緊急のそして一刻の猶予も許されない重大事故の事故対策です。
 廃炉どころではないし、廃炉に相当する作業は何一つ行われてはいません。人間を拒む放射線で壊れ具合は解らないし、手立ても見つかっていないのが現状です。
 なのに、東電福島の事故対策は、廃炉とうことで括られます。
 何故か?!
 それは、廃炉で括れば事故の終息、放射性物質のコントロールしてしまえるからです。 その放射性物質の除染が、福島県内を中心に広く実施されています。除去ではなく、放射性物質が付着している家屋を拭い取ったり、土を削ったりする除染です。その時、拭き取った道具(雑巾など)や、削り取った土は、そのまま汚染物質として残ります。その汚染物質を、処分することになっていますが、最終処分場は見つかっていません。長期(数十年、数百年)にわたって残る放射能の毒の受け入れ先が見つからないからです。その結果、汚染物質を一時的(30年間)に保管する中間貯蔵施設の建設が決まっています。
 しかし、事故から5年8か月経った今も、その施設の用地の確保もほとんどできていません(10%未満)。用地の予定地は、事故の東電福島が立地したり、隣接したりする、福島県大熊町や双葉町です。放射性物質の環境中への放出で、全住民が避難し、今も立地、隣接する事故の東電福島からの放射性物質に晒される町です。
 危ないのです。
 危ないものが、立地ないし、隣接する危ない場所に、危ないものが大量に運び込まれます。
 それなのに、新聞の社説が「廃炉費の負担。原発優遇は理が通らぬ」で、「廃炉」と言ってしまうのは違うように思えます。東電福島の事故後を東電・国が廃炉で括ってしまうのは、それが取り返しのつかない事故であるにもかかわらず、何かが可能であるかのようにすり替え、かつ途方もない事故対策費(既に、20兆円を超える)を、国・税金によって賄おうとする意図が働いているのです。既に東電は、一企業であるよりは、株式の過半数を国が保有する国有企業です。事故対策費も当面は国が肩代わりしており、社説の経産省の有識者会議の「廃炉費の負担案」で、結果的に負担の行き付く先は国です。事故を起こしたのは、東電福島の東電です。事故を引き起こし、事故の責任を問われるべき事業者です。廃炉ないし、廃炉費になってしまう時、事故から5年8ヵ月経った今も東電福島で進行中の事故の責任を問われなくても済むことになります。
 新聞の社説の「経済産業省は、事故を起こした東京電力第一原発の廃炉費の負担案を有識者会議で示した。自由化で参入した『新電力』に、その一部を払わせる内容が含まれている」の「『新電力』に、その一部を払わせる」は、筋違いであるばかりではなく、東電の事故責任を免責し、かつ、現在も進行中の事故の事実から目を反らすことになります。
 「経済省、第一原発廃炉で専門委/費用、電気料金に上乗せ案」(9月21日、福島民報)。
 「東電公的管理延長へ/政府調整、廃炉費用増が影響」(10月2日、福島民報)。
 「有識者会議、東電支援案を協議/廃炉滞る懸念も」(10月6日、福島民報)。
 こうして、廃炉で括ることが繰り返されていることで、事故の東電福島ではあり得ない廃炉が、あたかもあり得るかのように刷り込まれることになります。
 東電福島の重大事故は、現在も緊急事態の事故が継続中(冷却の為に注水した汚染水から除去されたセシウムの吸着塔が仮置きされ増え続けていたり、その汚染水から除去された多核種の容器が増え続けているなど)であり、どんな意味でも廃炉作業に着手することは難しく、その難しさは今もこれからも変わりようがありません。廃炉を難しくする事故なのです。
 11月10日、東電福島1号機の建屋カバーの撤去が完了しました。カバーの撤去が話題になるのは、水素爆発で建屋が吹っ飛んで放射性物質の飛散を防ぐ目的のカバーが、強く汚染されているため難作業の事故対策の一つであったことと、建屋が壊れた使用済みの燃料プールから燃料を取り出すことは、緊急を要する事故対策のほんの一歩だからです。「建屋に風除けのシートを仮置きし、放射性物質を含む埃が舞い上がらないよう監視しながら」「核燃料の取り出しに向けた準備作業を本格化させる」(11月10日、朝日新聞)、この新聞記事もまた、少なからず解りにくく、現時点で「核燃料の取り出しに向けた準備作業を本格化させる」の「本格化」は、使用済み燃料のことに過ぎず、それは廃炉ではもちろんなく緊急事故対策の入り口で右往左往しているにすぎません。 height=1
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