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2016年12月03週
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 辺野古訴訟で、沖縄県・知事側の「敗訴」が確定しました。「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、埋め立ての承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事を国が訴えた上告審で、最高裁第二小法廷(鬼丸かおる裁判長)は、12日、判決を20日に言い渡すと指定した。高裁判決の結論を変更する際に必要な弁論を開かないため、知事の敗訴とした福岡高裁那覇支部の結論が確定すると見通した」「辺野古への移設に必要な沿岸部の埋め立てを巡っては、仲井眞 弘多前知事が2013年12月に国の申請を承認。だが、翁長知事が昨年10月に承認を取り消した。国と県は、相互に計3件の訴訟を起こしたが、今年3月に和解が成立。和解条項に基づき、国は承認取り消しの撤回を求める是正指示を出したが、翁長知事は応じなかったため、知事が従わないのは違法であることの確認を求め、国が福岡高裁那覇支部に提訴した。9月の支部判決は、国の主張をほぼ全面的に認め、前知事の承認を『不合理ではない』と判断。『翁長知事が埋め立ての承認を取り消しを撤回しないのは違法だ』と結論付けた」(12月13日、朝日新聞)。
 いわゆる「辺野古訴訟」で「辺野古、知事敗訴確定」に至る経緯は、ほぼこの新聞記事の通りです。ただ、「ほぼこの新聞記事の通り」も、ざっと眺めるだけで、福岡高裁、そして最高裁の決定(決定しようとしている)も、かなり変です。
 前知事が、知事に選ばれた時の公約は、「辺野古移設は認めない」でした。理由は、①「沖縄に更に新しい米軍基地は、建設させない。」②「建設予定地の辺野古で沿岸・大浦湾の自然破壊を許さない」でした。その沖縄県民への公約を裏切ったのが、「仲井眞 弘多前知事が、2013年12月に国の申請を承認」でした。
 その後の知事選で選ばれた翁長雄志知事の公約は、「辺野古移設は認めない」でした。その理由は、①「沖縄に更に新しい米軍基地は建設させない」②「建設予定地の辺野古で、沿岸・大浦港の自然破壊を許さない」でした。翁長知事は、2015年10月に、前知事の承認を取り消しますが、「国と県は、相互に計3件の訴訟を起こし」、裁判長の指示で2106年3月に和解が成立します。和解の話し合いの途上で「国は承認取り消しの撤回を求める是正指示」を出します。「和解」というのは、お互いの主張を、とりあえずは引っ込めて話し合い、お互い何とか受け入れられる範囲内での「合意」に達しようとする意志があって可能な営みです。いわゆる「辺野古訴訟」で「和解」を指示したのは裁判所ですが、そして、「和解」とはそもそも前述のことを指すのが普通のはずですが、国は全くそうではなく、さっさと、「承認取り消しの撤回を求める是正指示」を出し、それに「知事が従わないのは、違法であることの確認を求め」提訴します。一連の国の対応は、「和解」でも何でもなくって、全く一方的に、辺野古移設・新基地建設を、力づくで認めさせようするものです。更に「和解」が取り沙汰されるにもかかわらず、こんな一方的で力づくの対応で、国には裁判では勝つ「勝算」がありました。福岡高裁那覇支部に提訴した時の国の主張の根幹になっていた一つが、米軍基地建設が日本国家にとって比べるもののない重要で、かつ尊重されなければならないとする「公定力理論」と言われる理論です。国は、この理論を元に、米軍基地建設の理由や、沖縄県の主張などについても反論はしませんでした。沖縄県の主張がどうであれ、辺野古新基地建設は、日本国家安全にとって必要不可欠であり、それは何よりも優先するとして、それで押し切れると踏んでいましたし、福岡高裁那覇支部の判決は、すべてその線に沿ったものでした。

①憲法違反:新基地建設で県の自治権は侵害されず、「地方自治の本旨」には違反しない。
②取り消し制限:公有水面埋立法での承認取り消しより制限される。
③裁量内違法:知事の持つ裁量内の要件適合性の当否を裁判所が判断。
④審理の対象:前知事の埋め立ての承認処分。
⑤埋立の必要性・合理性:必要性や合理性はある。
⑥環境保全策:国の対策は合理的。
⑦是正の指示:今回は適法。
⑧違法な「不作為」:地方自治体の手続き放置により、違法性が高まる訳ではない。

 いわゆる、「辺野古訴訟」での沖縄県の立場・主張は「過重な基地建設の実態がある中で、新基地建設を行うことは自治権を侵害する」「埋め立ては辺野古・大浦湾の自然を破壊する」の2点でした。その沖縄にとっては譲れない主張に対する裁判所の決定は、一方的に国の主張をなぞるだけの内容になっています。「判決では、承認取り消し処分の違法性を判断するには承認処分に最高検の逸脱・乱用による違法があることを要するが、翁長知事に裁量はなく」「公有水面埋立法に関しても国防・外交といった国の本来的任務に属するため不合理がない限り尊重される」(12月13日、琉球新報)。
 「判決」は、それが沖縄を巡って争われていること、そして沖縄でなければならない理由には一切言及されません。沖縄県が求めているのは、それが今また、沖縄でなければならない理由であり、沖縄が戦場となったことと、そこで強いられた犠牲、更に沖縄が沖縄戦後、今日に至るまで、ほぼ米軍統括下、植民地としての扱いを受け続けていることが、辺野古新基地建設で拒む理由なのですが、その一切を国は無視します。高裁判決も無視します。同じように、高裁判決が無視するのは、沖縄島に残された沖縄でも貴重な(と言われてもいる)、辺野古沿岸・大浦湾の海の自然です。その自然を破壊して、沖縄に新たな米軍基地を建設にする理由を、高裁の判決は、中国との緊張関係にあるという、言わば政治的に判断し、新基地建設が日本国家にとって優先課題であると判決します。もし、裁判というものが、法に基づいて判断するのであれば、それが、基本・原則であるとすれば、明らかにこの判決は裁判、裁判所というものが立つべき位置を逸脱しています。その時代の政治と政治的判断を後押しするのが、法、そして裁判であってはならないからです。
 12月12日に明らかになった最高裁の「辺野古。知事敗訴確定」は、9月の高裁の判断・判決をそのままなぞることになります。それは沖縄の人たちが生きてきた歴史も、今を生きる意志もすべて踏みにじることを日本国家の意志として決定することを意味します。
 「専制君主は彼の臣民に社会の安寧を確保する、というひともあろう。いかにも。しかし、彼の野心が臣民たちに招きよせる戦争や、彼のあくことなき貪欲や、彼の大臣どもの無理難題が、臣民たちの不和がつくり出す以上の苦しみを与えるとしたならば、臣民たちは何のうるところがあろう? もし、この安寧そのものが臣民たちの悲惨の一つであるならば、彼らは何のうるところがあるだろう? ひとは牢獄のなかで安らかに暮せる。だからといって牢獄が快適だといえるか? キクロポスのほら穴に閉じ込められたギリシャ人たちは、食い殺される順番がくるまでは、そこで安らかに暮らしたのである」(「社会契約論」ルソー、岩波文庫・第四章、ドレイ状態について)。
 「理想的な国家形態は、どれもユートピアである。国家というものは、ただ理論のみで構築することはできないのであって、一人の人間と同様に成長し、成熟しなくてはならない。しかし、どんな文化にも、黎明期には国家形態の前身が存在したことを忘れてはならない。家族は人間そのものと同じくらい古く、理性を有する人間は原始的な集団から、国家は神の秩序の似姿でなくてはならず、あらゆるユートピアのなかでも最高の神の国を模範とし、それに近づくことが究極の使命である。ここで、民主制、立憲君主制、王制など、考えうるさまざまな国家形態について判断を下そうというわけではない。ただ次の一点だけは誤解のないよう強調しておきたい。それは、人間は誰でも、一人一人に、有益で公正な国家を要求する権利があるということだ。その国家は、個人の自由も全体の安寧も保障する国家でなくてはならない。なぜなら人間は、国家共同体とともに生き、活動して行く中で、自然な目標、つまり自主独立における現世の幸福の獲得を、神の意思に従って、自由奔放に追求するべきだからだ」「しかし、今日のわれわれの『国家』は、悪の独裁制である。『そんなことはみんなとっくに知っている』という諸君の反論が聞こえる。」「もしわれわれが、立ち上がり、これまで欠けていた勇気を奮い起こすことが、この瀬戸際にあってもまだできないのであれば、風に舞うちりのごとく、世界のあちこちにまき散らされてしまうのが当然の報いだ」(「『白バラ』尋問調書」未来社、第1章「白バラ」のビラ、Ⅲ、○注)。
 「原理的に言えば、国民主権は、国(側)あるいは裁判所をも超える。主権者なる国民の意思は、様々な形で発動される」「知事を先頭に現地で『一万人の座り込み』が始まり」「裁判所がどのような判決を出そうが『沖縄』は死なないのである」(世界、5月号)五十嵐敬喜)。
 
○注この「白バラのビラ」を、1943年1月に、ミュンペンなどで配布した、ハンス・ショル、ゾフィー・ショル兄妹、そしてクリストフ・プロープストは、2月22日に、ナチスの「族裁判所」で死刑が宣告され、その日の午後、ギロチンで処刑されました。
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