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小さな手大きな手

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2018年02月01週
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 「水脈の果炎天の墓碑を置きて去る」は、戦後捕虜となった1年3か月後に、トラック島から「復員」する時に、金子兜太の書いた俳句です。その戦争体験者金子兜太96歳の戦場報告が「あの夏、兵士だった私」(清流出版、2016年)です。主計中尉として見たのは「飢え死にする人間たち」でした。「…とにかく飢えとの闘い。朝起きると、多いときには5~6人の餓死者が出るようになった。夜のうちに死んで行くんです。寝たまま、もう目が覚めない。たくさんの人間が朝になって目を覚まさずに死んで行った」。
 「第2次大戦(日本においては太平洋戦争)において、日本人の戦没者数は310万人、その中で軍人軍属の死者数は230万人とされている」「現在では日本軍人の戦没者230万人というのが、政府が明らかにしている概数である」「この戦争で特徴的なことは、日本軍の戦没者の過半数が戦闘行為による死者、いわゆる名誉の戦死ではなく、餓死であったという事実である」(「飢死にした英霊たち」藤原彰、青木書店)。
 「150年前、明治という時代が始まった」「身分、生まれ、貧富の差にかかわらず、チャンスが与えられる。明治という新しい時代が育てた数多(あまた)の人材が、技術優位の欧米諸国が迫る『国難』とも呼ぶべき危機の中で、我が国が急速な近代化を遂げる原動力となりました。今また、日本は、少子高齢化という『国難』とも呼ぶべき危機に直面します。この壁も、必ずや乗り越えることができる。明治の先人たちに倣って、もう一度、あらゆる日本人にチャンスを創(つく)ることで、少子高齢化もきっと克服できる。今こそ、新たな国創の時です」などあって、「安倍首相の施政方針演説」(以下安倍施政)は、「②働き方改革」「③人づくり革命」などと続きます。
 「『国難』とも呼ぶべき危機の中で、我が国が急速な近代化を遂げる」150年の間の、およそ中間あたりで起こすことになった、第2次大戦の太平洋戦争で、320万人の戦没、うち230万人軍属軍人、更にその過半数が餓死者でした。「国難」で始まったとされる明治維新の「急速な近代化」の近代化が、無謀な戦争の無残な餓死者をきざんだ歩みでもあったとすれば、「安倍施政」の①はじめには、たとえかけらでも、そんなことになってしまった歴史の事実への言及があっても、おかしくはないはずです。
 「安倍施政」の②は「働き方改革」です。で「『働き方改革』を断行いたします」で始まります。その「働き方改革」で言及されるのが「長年議論だけが繰り返されてきた『同一労働同一賃金』」、「我が国に染みついた長時間労働の慣行」ですが、だったらどうしてそんな不公平、不平等、不当なことがまかり通ってきたのだろうか。全ては、一方的な強い力でものごとが決まって行く、そんな現場・職場そして社会だったからに他なりません。なのに、それを一方的な強い力そのものである「安倍施政」のようなもので、もっともらしく「働き方改革」として打ち出してしまう社会・政治が、更にしゃしゃり出ることを意味します。そもそも「働き方」などというものは、働く当事者以外の誰かが定義するものではなく、すぐれて、当事者ないし個人が、自ら選択し決めるものであるはずです。「③人づくり革命」でも、言われるのが「少子高齢化の克服」(注)です。メディアなどの情報では、少子ではない家族がモデルとして紹介されます。このあたりの飲食店、衣料品店が並ぶショッピングセンターでも、少子ではない家族連れを見かけます。「少子化」ではないのです。しかし、「国難」ともいわれる少子化は、そんな人たちでは間に合っていないことを意味します。少数の恵まれた人たちの家族ではなく、そうではない人たちが家族を営むことが起こらない限り少子化は更なる「国難」であり続けます。子育て、家族であることは、この国のような社会では、ある程度以上の豊かさが約束されない限り難しいのです。なぜなら、子育ては想像を絶する、人の手を必要とする営みである限り、それを家族で担うとすれば、ある程度以上の豊かさがなければ難しくなります。たとえば、経済的に貧しいとされる国、地域が少子でなかったりするのは、貧しいなりにそこには一緒に子どもたちを育てかつ、その為に限られたものを共有ないし分け合う社会の根底が失われていないからだと考えられます。「③人づくり革命」では、そうして共有し分け合う社会ではなく、社会保障制度、労働環境の改善、処遇改善などのことを言及しますが、社会が社会として成り立つための共有・分かち合うなどのことには気づいていないかのようです。いずれにせよ、「働き方」「人づくり」など、人をよりモノに近い位置でしかとらえることも見ることもできない社会では、少子化は「国難」であり続けるよりありません。「③人づくり革命」の2項目は「教育の無償化」ですが、教育を制度及び、教育を制度の問題としてしか捉えられないとすれば、教育の現場、それと地続きの家庭はされに荒廃することが避けられなくなります。たとえば、文科省の統計発表によれば、小・中・高の学校現場の「いじめ」は、2016年度は前年より10%増の35万と言われています。それらが原因とされる子どもたちの自殺も、240人を超えるとされています。「教育の無償化」を目指す学校現場の、それが現実なのです。「いじめ」とされるような、子どもたちの衝突が起こってしまうのは、それが枠組みとしての強制力を持ってしまう時、一層「いじめ」が激しくならざるを得なくなるからです。子どもというものが、本来持っている外への羽ばたくエネルギーは、それが枠にはめられかつ制限される時、身近にいる仲間にささやかな違いを許さずにぶつけてしまう、それが結果として「いじめ」になってしまうと考えられます。その学校で「この春から、道徳が、すべての小学校で正式な教科となります」、結果として「公共の精神や豊かな人間性を培い、子どもたち一人ひとりの個性を大切にする教育再生を進めてまいります」とうたわれています。子どもたちに育つことが期待される「公共の精神や豊かな人間性」は、子どもたちが今生きて社会の毎日の出会いにそれがあってはじめて、身につけるし理解もするはずです。閉じられた教室の中の「正式な教科」で身についたりするものではありません。体全体を全開している子ども時代を生きている生きものの人間に、教科はなじまないのです。それが「正式な教科」になる時、更に子どもたちの生きる世界は息苦しいものになってしまいます。
 「安倍施政」はこのようにして、より大きな社会の枠組みに、子どもたちから始まって、人間をあやつることを疑わない人たちの考え方によって貫かれているように読めます。豊かさはより物質的な豊かさ、消費であり、それを前提とする競争をあおるのが施政です。「安倍施政」がそれをすべての「国民」に求めるとすれば、ファシズムそのものです。
 そんな「安倍施政」を、金子兜太は「アベ政治を許さない」と喝破しました。それを「自筆」したプラカードは、たくさんの人たちに共感・共有されることになりました。「昨年『九条の会』の呼びかけ人で作家の澤地久枝さんから『金子さん、プラカードの文字を書いてよ』と連絡があった。『なんのことかな?』と思っていたら、全国の『安全保障関連法案』反対デモで、『アベ政治を許さない』というプラカードを掲げたいから、その文字を書けというんですな」「『安倍』の文字はカタカナにしました。『なんでカタカナなんですか?』と聞かれるけど、『安寧(あんねい)』が倍になるなんてとんでもない、むしろ『安心』がどんどん脅かされていくように思えてならなかったからです」「『許さない』の文字を大きくしたのも『こりゃあ危ない』と、強く感じたから。それに『アベ』とカタカナにしたせいで『許さない』が目立つようになったのもよかった。私は戦場で、嫌というほど無残な死を見てきました。戦争ほどの悪夢はない。不幸の積み重ねです」(前掲「あの夏、兵士だった私」)。


 この国では「国難」と呼ばれる少子化は、広く世界に目を向けると、全く逆で、子ども、人口は増え続けています。残念ながら、そんな子どもたちのかなりが、命を長らえることができなくなっています。悲惨な戦争が、弱い子どもたちの命を奪い、傷つけているからです。もし、そんな子どもたちに目を注ぐ度量があって、更に具体的に受け入れる手立てを講ずる気があれば、「少子化・国難」は一気に吹っ飛んでしまいます。
 「少子化」と言い「国難」と言ってしまうこの国の現実は、子どもが生まれ育つ社会基盤が崩れ、それを再構築する力を失ってしまっているからです。子どもでいう一筋縄で行かない、言ってみればやっかいな生きものを育てるのには、多大のエネルギーを必要とします。しかし、その社会がつながりを失わず、かつ共有するものあれば、その社会そのものが何とか子育てを実現して行きます。同時にその時、子どもたちが育つことの喜びも共有することになります。それこそが社会なのです。安倍施政が言わんとする社会とは根本において異なっています。この国が、社会としての門戸を広げる時、世界の子どもたちがこの国の子どもたちになり、時には手を差し伸べ、時には受け入れる時、少子化は「国難」ではなくなります。
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