東電福島の事故で、それが原子力発電所の重大事故である事実が、当事者(国・東電)によって、事故の早い段階から隠されるないしは過少に評価、発表されてきました。原子力発電所の外観形状が、2重3重に囲い込まれた巨大な要塞であるのには理由がありました。発電の為に取り扱っている放射性物質はまかり間違えば核分裂反応で巨大なエネルギーを発する爆発になるからです。同時にそれは、完全に閉じ込めることが条件である放射性物質を環境中に放出してしまうことであり一旦環境中に放出されたその物質の毒は、回収はもちろん除去できないことが解っていました。その「要塞」が爆発してしまったのが、東電福島の事故です。どうであれ、その事故の事実は、事故の周辺の人たちはもちろん、広く共有される必要がありました。しかし、事故の事実は小出しに発表され、何よりも周辺の人たちを被曝の危険から守る避難の為の情報が伝えられるべきでしたが、情報が隠されたまま、避難だけが指示されました。結果、爆発によって発生した放射能のプルームが流れた、事故現場から北西に位置する、飯舘村などが、避難経路になってしまいました。
すべてにおいて、事故の事実が隠されるないしは過少に評価、発表されたのです。
事故原因について、当事者である東電は今に到るまで「想定外」としてゆずらず、国もそれを追認しています。さらに、想定外を理由に、事故責任も回避し続け、国・司法もそれを容認し、現在検察審査会の2度にわたる議決を経て、やっと刑事裁判として争われています。
燃料が溶融し、圧力容器・格納容器さらに原子炉本体さえもが溶融する事故で、当初、大量の高濃度の放射能汚染物質が海洋に流れ出してしまいました。事故の溶融した燃料等の冷却も不可欠であり、その緊急の仮の設備が稼働した時点で、東電・国は事故の原子炉はコントロールされているとしました。この「コントロールされている」は、今日に到るまで、国・東電が東電福島の事故についてのゆずらない評価になっています。オリンピックの招致にあたっても、国・アベ政治は内外にそれを宣言しています。確かに、循環冷却施設によって冷却は可能になり、汚染水からのセシウムの除去も進んでいます。後に稼働することになる、多核種除去設備によって、50~60種の放射性物質の除去も進んでいます。しかし、除去が難しいトリチウムを含んだ汚染水は増え続け、その処分方法を国民に問う公聴会が開かれています。経済産業省の設置した小委員会が、いつくかの処分方法を検証し、それをもとに意見を聞く公聴会で、その第一回目が、福島県富岡町で開かれました。そこで、意見表明した人たちから指摘されたのが、汚染水にトリチウム以外の放射性物質が含まれている事実でした。「東京電力福島第一原発でたまり続ける汚染水について、経済産業省は30日、処分方法に関する公聴会を福島県富岡町で開いた。政府は、浄化処理した汚染水を水で薄めた上で『海洋放出』する手法を有力視していたが、放射性ストロンチウムなどこれまで説明されていたトリチウム以外の汚染物質も含まれていることが明らかになった」(8月31日、朝日新聞)。公聴会は、「原発事故から約7年でたまり続けた汚染水は92万トン。処理前の汚染水と合わせて敷地内のタンクは約900基になる。経産省は、タンクの増設は用地の確保が困難になる2020年末までが限度と判断」(同前、朝日新聞)との判断にもとづき、5つの処分方法を示し、中でも海洋放出を「現実的」と関係者、国民に納得させるのが目的で設定されているからです。これらの方針に最も影響のある、原子力規制委員会の前委員長も、現委員長も、繰り返しそれを言明してきました。ちなみに、小委員会が説明した5つの処分方法の概要は以下のようになっています。
「希釈・海洋放出」は、想定されている費用も少なく、(要するに薄めて海洋に放出するだけ)なかなか現実的なのです。ところが、希釈・海洋放出が「現実的」とされているトリチウム汚染水には「放射性ストロンチウムなどこれまで説明されていたトリチウム以外の汚染物質も含まれていることが明らか」になりました。「現実的」とされる、トリチウム汚染水を、希釈・海洋放出することも、本来は決して許されないことです。放射能の毒を完全に閉じ込めることで稼働が許される原子力発電所の条件を破ることになるからです。それが閉じ込められなくなって溜り、「92万トン、900基」のタンクの増設が難しくなり、更に増やし続けるのは現実的でないから、現実的な手段・方法として希釈・海洋放出なのですが、ここで言われている「現実的」はずいぶん恣意的である言わざるを得ません。というかすべてが、恣意的なのです。たとえば、トリチウム汚染水を溜めるということで増設されている東電敷地内のタンクも、本来は決してそこには置けない施設です。それが可能になっているのは、東電福島の事故の後、そこをすべて特殊原子力施設と特定し、なんでもありにしてしまったからです。前掲の循環冷却施設で、除去されたとされるセシウムは、セシウム吸着塔という容器に集め、いっぱいになると交換されて、東電敷地内に仮置きされています。多核種除去装置の場合も除去されたとされる多核種のカートリッジも、敷地内に仮置きされています。特殊原子力施設だからです。それらが、敷地内で満杯になるとしても、別に場所が得られないから、という理由で希釈・海洋放出が現実的な手段として提案されているのです。
で、そのトリチウム汚染水に「放射性ストロンチウムなどこれまで説明されていたトリチウム以外の汚染物質も含まれていることが明らか」になったとすれば、現実も少なからず変わってきます。この点についての事実関係は、手元の新聞(朝日新聞、福島民報)を見る限りあんまりはっきりしません。前掲の朝日新聞の場合、直接問い合わせてみたところ、「ニュースソースにあたるものは、明らかにできない」とのことでした。福島民報の場合、この点については間接的に紹介するに止まっています。「ALPSで浄化後の水にトリチウム以外の放射性物質が残留していた点に関し、個人的な意見と前提した上で(山本一良小委員会委員長に)『何らかの処理を複数回重ねるべきだ』とし、再浄化などの対応が必要との認識を示した」以下、公聴会でこの点に言及した3人の発言要旨(いずれも福島民報)。「トリチウム以外の放射性物質が入っている水の処分の在り方は検討されていないはず(面川春光、いわき市)」「トリチウム以外の放射性物質の残留が分かり、公聴会の基本原則が破綻している(佐藤和良、いわき市)」「多核種除去設備でトリチウム以外の核種が除去されていない現状では、公聴会を開く状況ではない(名嘉幸照、富岡町)」。今まで、確認不足で海洋放出が現実的とされるトリチウム汚染水について、そのまま理解していましたが、東電にも問い合わせてみました。それによれば、「海洋放出」が検討されている、いわゆるトリチウム汚染水に、他の核種が含まれていることは解っていた」「基準値以下であるので、特に問題にしてこなかった」「東電の見解は何一つ変わらない」でした(東京電力お客様相談室、舟根)。で、福島民報(8月31日)には以下の別の記事もあります。「トリチウムだけなら、風評被害を別にすれば、排水の法令を基準値以下で流すことは法的には可能だ。しかし、汚染水を処理した水に、排水の法令基準値を上回る別の放射性物質が残っていることが明らかになったばかりだ。これを放出することは法令違反であり、本来ならば公聴会を開く(トリチウム汚染水の処理という名目で)段階ですらない」(青山道夫、福島大学環境放射能研究所・特任教授)で、再度、東電のお客様相談室に、この点について問い合わせてみました。「汚染水の濃度など、日によって違うので、中には(ヨウ素、ストロンチウムなど)基準値を超えるものもあった。2017年度の記録によって判明している」(渡辺)。
繰り返し言及しているにもかかわらず、少なからず見落とすないし勘違いし勝ちなのが、東電福島の事故の事実です。
1、人間の力では決して処理が不可能(危険でありかつ技術的にも)な物質が環境中に放出されてしまった。
2、国・東電はあらゆる機会に事故の事実を過少に恣意的に発表・報告する。
たとえば、多核種除去設備がトリチウム以外は除去したとする場合でも、どんな技術をもってしても、完全に除去することはできなくて、基準値以下、時には基準値を超える放射性物質は残ってしまう。
その事実に、恣意的な判断が加わる時、事故の事実の現在は、限りなく見えなくなってしまいます。重大事故になってしまった東電福島の事故は、どんな意味でも取り返しがつかないのです。「92万トン、900基」になってしまった汚染水のタンクは、増やせないではなく、増やし続けるよりないのが、東電福島の事故であり、そのことこそがこの事故の現実なのです。
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