(前週よりの続き)
2007年9月の「『軍強制記述回復』を決議、『集団自決』歪曲に抗議」する検定意見撤回要求の県民集会(県内外から11万6千人)の時、沖縄県市長会長として翁長雄志那覇市長の発言には、辺野古新米軍基地建設に触れる言葉はありませんでした。2012年9月の、米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの県内配備計画の撤回を求める「オスプレイ配備に反対する県民大会」の時の翁長沖縄県市長会長の発言にも、辺野古新米軍基地反対の言葉はありませんでした。2013年1月の、オスプレイ「配備撤回を」沖縄県全41市町村長が訴え、政府に「建白書」を提出した東京行動での翁長沖縄県市長会長の発言にも、辺野古新米軍建設反対の言葉はありませんでした。2013年4月の、政府が4月28日に開催する「主権回復の日」式典を前に開催された公開討論会「フォーラム4.28、沖縄から『主権』を問う」での翁長那覇市長の発言で、後に辺野古新米軍基地建設反対の立場を明確にする、基本的な理解、考え方が示されています。
「7年前、安倍首相が『美しい日本』と言った時に違和感があった。さらに今回の『日本を取り戻す』にも本当に違和感があった。戦後27年間、沖縄は日本国憲法の適用も当然ないし、児童福祉法の適用もない。国会議員も一人の出せなかった」「県民にとっては、まさしく(「主権回復の日」は)『屈辱の日』だ。安倍首相はこの日に沖縄の問題が横たわっていることが頭の片隅にもなかったのではないか」「4.28(1952年のサンフランシスコ講和条約を記念し、政府が4月28日に開催する『主権回復の日』式典)で、本当に主権は回復したのか」「日米地位協定はまさしく日本の主権・独立を阻害している。1952年以降、今日までその状況は変わっていない。つまり日本の主権はいまだ回復していない。私は憲法改正よりも、日米地位協定の改定こそが日本の主権回復につながり、日本を取り戻すことにつながると思っている」「沖縄県民は自分で持ってきたわけではない基地を挟んで、基地だ経済だと大げんかしてきた。上から目線で本土の人が見ているような感じがして、とても許せない。やはり県民がまとまって取り組まないといけない」「政党、会派でいろんな考えがあるのは分かる。しかし、腹八分、腹六分で目標を設定し、県民が一つとなって運動を展開できない限り、今の状況は変わらないだろうと20年ほど前から考えている。今がそういう時期かなと思う」「若者が、沖縄、琉球王国、先祖に対する誇りを持ち、理解して、21世紀にアジアの中でどう飛躍していくかが大事だ。若者が誇りと自信をもっていれば日本をのみ込んでいくのではないか」。
2014年9月、米軍普天間飛行場の移設候補地である、名護市辺野古、キャンプ・シュワブ前を訪れ、「皆さんの行動が名護の町を守り、沖縄や日本のあるべき姿を考える。辺野古基地は絶対造らせない。力いっぱい頑張っていきたい」とあいさつします。2014年9月、自らが選対本部長をつとめた、仲井真弘多知事の対抗馬として、沖縄県知事選に立候補することを発表します。「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関して『今や米軍基地は沖縄経済発展の阻害要因だ。辺野古新基地建設には断固反対する』と強調した」「翁長氏は『仲井真知事が公約を破棄して(辺野古埋め立て)承認した。承認は県民の理解を得ていない。まず知事選で県民の意思をはっきり示すことだ』と話し、承認の賛否が知事選の最大の争点になるとの認識を示した」。
知事選当選後のインタビューで、知事として自らの沖縄理解と、沖縄のこれからについて語っています。「ただ、今のアジアのダイナミズムの中で、経済の位置付けが大きくなってきたが、人の心の中で(経済か尊厳かではなく)生活と平和を一緒に考えられるようになった。それがオール沖縄だと思う。オール沖縄は、誇りのない豊かさではない。誇りのある豊かさだ。…殺伐とした豊かさではなく、潤いのある豊かさだ」「ただ県外に(基地を)持っていけという主張は無責任だという批判が沖縄から出るのはさびしい。基地を勝手に造られ、67年たって世界一危険だからどかすけど、移転先はお前たちで探せというのはおかしい。政府で考えてくれというのは、当たり前の話だ。こういったことが理解されないで、危険を除去するために移してあげるのに、沖縄は何をばかなことを言っているのかという話が通っている。そうではないということを知らしめたい」。
こうして、沖縄県知事に当選したにもかかわらず、首相、官房長官は拒み続け、2015年4月になって菅官房長官との会談が実現します。冒頭で菅義偉(よしひで)官房長官が発言、それを受け翁長雄志沖縄県知事が発言します。その発言を項目別にまとめると以下のようになります。
①忙しいことを理由に会おうとしないで、「物事を粛々と進める」ということへの怒り
②日米安保体制が重要であるというのであれば、沖縄県にだけ多くではなく、日本全体で このことを受けとめるべきだ
③オスプレイなどの訓練を本土でもすると言うが、「基幹基地は沖縄」と言うのでは問題 の解決にならない
④しかも米軍の運用に、口を挟めないということであれば、日米地位協定の改定は不可欠 である
⑤沖縄県が自ら米軍基地を提供したことはない。普天間飛行場もそれ以外の基地もすべ て、戦争が終わり県民が収容所に入れられている間に、県民がいるところは、銃剣とブル ドーザーで基地に変えられた
⑥普天間は世界一危険だから、危険除去のために、「沖縄が負担しろ」「お前たち、代替 案を持ってるか」「日本の安全保障はどう考えているのか」「こういったことが話される こと自体が、日本の国の政治堕落ではないか
⑦一昨年、サンフランシスコ講和条約発効のお祝いの式典があった。沖縄にとっては悲し い日だ。その結果27年間、日本の独立と引き換えに米軍の軍政下に差し出され、沖縄は 米軍との過酷な自治権獲得運動を強いられることになった
⑧官房長官は「粛々」という言葉を繰り返し使う。埋め立て工事に関し問答無用の姿勢で ある
⑨官房長官が「粛々」という言葉が全国放送で出てくると「沖縄の自治は神話である」と 言った、キャラウェイ高等弁務官の姿が思い出される
⑩強制接収された土地を、プライス勧告で、強制買い上げをしようとしたが、貧しさで県 民は金が欲しかったがみんなで力を合わせて阻止した
⑪こういう自治権獲得の歴史は「粛々」と言う言葉には決して脅かされない。上からの目 線で「粛々」という言葉を使えば使うほど、県民の心は離れ、怒りは増幅する。私は辺野 古の新基地は絶対に建設することはできない
⑫私たち県民の誇りと自信、祖先に対する思い、将来の子や孫に対する思いの全部が重 なって、私たち一人ひとりの生きざまになっている。こういう形で「粛々」と勧められる ものがあったら、絶対に建設できない
⑬ラムズフェルト国務長官(2003年当時)が「普天間は世界一危険な飛行場だ」と言い、 官房長官もそれを国民や県民を洗脳するかのように言っている
⑭普天間が返還され辺野古に移ると1/4になるというが、更に嘉手納以西も相当返還される というが、全体では73.8%から73.1%になるにすぎない
⑮那覇軍港やキャンプ・キンザーを返すと言うが口約束にすぎない。沖縄ではそれを「話 のごちそう」「ハナシクヮッチー」と言う
⑯安倍総理の「日本を取り戻す」は沖縄は入っていない
⑰安倍総理は「戦後レジームからの脱却」と言うが、沖縄からは「戦後レジームの死守」 としか聞こえない。それが辺野古新米軍基地建設だ
⑱知事選の10万票差は、沖縄県民の新基地建設反対の意思だ
⑲沖縄は、平和の中にあって初めて、沖縄のソフトパワー、自然、歴史、伝統、文化、万 国津梁の精神、世界の架け橋になる
2015年5月の「戦後70年、止めよう辺野古新基地建設!沖縄県民大会」に出席した翁長雄志知事は「辺野古移設が普天間返還の『唯一の解決策』とする政府に対し『阻止することが唯一の解決策だ』」と強調し、「うちなーんちゅ うしぇーてぃ ないびらんどー!」(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)と発言を終えました。
2015年10月、沖縄県は、前知事の名護市辺野古の埋め立て承認を取り消します。沖縄県民は知事選挙で、辺野古新米軍基地建設に反対する翁長雄志さんを、公約を破棄し、辺野古埋め立てを承認した現職を10万票の得票差で選びます。地元の自治体の長を選挙で選んだ知事と県民の意思が尊重されるは当然のことなのですが、国・政府は埋め立てを強行します。「承認取り消しの無効化を求める審査請求とその裁決まで取り消しの効果を止める『執行停止』を国土交通相に『速やかに行う』」です。日米両政府という絶大な権力が一地方自治体を追いつめるのです。「日本国全体からしても地方自治体が追い詰められると。私たちからすれば、日米両政府は大変大きな権力を持っているし、法律的な意味合いから言っても、大変な大きな権力を相手にしている」。
(次週へ続く)
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