(前週よりのつづき)
この危機を乗り切る方法は
私たちが一体になること
コロナウィルス渦中に芽吹く相互扶助 ②
レベッカ・ソルニット 渡辺由佳里訳
今起こっているこの災害のさなか、数え切れないほどの思いやりと連帯の行動を目撃している。この寛大さの精神こそが、私たちをこの危機から抜け出させてくれ、より良い未来へと導いてくれる。
3月に、イギリスの国民健康保険(NHS)は、物資を配達してもらう必要がある高齢者、隔離している人、医療従事者を援助するボランティア25万人の登録を呼びかけた。すると、その3倍以上の人が登録した。NHSへの感謝の念はさらに高まり、NHSで働く医療従事者に対する週に1度の拍手喝采は、孤立をしばし断ってくれる歓迎すべきもののひとつになった。3月中旬には、全国の数百もの新しい相互扶助グループを一覧表示するサイトが立ち上げられ、人々が自分で地元にあるグループを検索できるようになった。
あるロンドン市民は「ロンドンの私の地域では、あまりにも多くの[相互扶助グループ]があって、通りごとのグループにまで分離独立してしまいました」と私に語った。「近所の2つの通りをあわせた私たちのグループは、買い物や処方箋薬の受け取り代行をし、子どもたちのためにイースターエッグの窓越し卵狩りを作り上げたりしてお互いを助け合いました」と。別の人はこう書いてくれた。「ロンドンのハックニー区には食料品の買い出しといった通常の支援はすべてありますが、それに加え、人々は、入院している人々への電話、子どもが自宅学習するために必要なラップトップコンピュータ、Covid‐19仮設病院で働くために(引退から)復職した医療従事者のための車などの寄付の調整を手配しています。」
数週間前、誰かがケンタッキー州レキシントン市には4つもの相互扶助グループがあると愚痴をこぼしているのを耳にした。多くのボランティアが余剰人員になってしまうのではないかと案じているのだ。私はその数の多さに驚いた。私はこのコラムを書く過程で、ニュージャージー州パターソン市における高齢者への食事配達、ツインシティであるミネアポリスとセントポール市の「ツインシティーズ・クイア・アンド・トランス相互扶助グループ」、アメリカ南西部の保留地でのホピ、ズニ、ナバホ族支援プロジェクト(㊟1)、不法移民を支援するワシントン州のプロジェクト、緊急資金を調整するために組織づくりをしたセックスワーカー、など多様な新しい相互扶助プロジェクトを調べた。
自宅に閉じ込められて孤立している人々が、ほかの場所で隔離している人々を励ますためにインターネットでダンスを教えたり、絵画教室をしたり、物語を語ったり、音楽を演奏したりするのを目にした。それぞれが自宅のバルコニーから一緒に歌うイタリア人たち、同じように詩を朗読するイラン人たち、同族の人々のために魚釣りに行くネバダ州の先住民族であるピラミッド湖のパイユート族(㊟2)の若い女性なども見かけた。私たちのほとんどが、体が弱っている隣人のために使い走りをしたり、励ましのメッセージをチョークで路上に書いたり、レジで支払いに困っているカップルの代金を立て替えてあげたり、解雇された知人や病気になった知人の資金調達のために寄付したり、といった一度きりの親切な行為を行うか、目撃した。しかし、こういった単発の行為は、ウイルスによるパンデミック、経済崩壊、大規模な撤退による感情面、教育面、その他の影響といった三重の大災害に対応するのには充分ではない。
ゆえに、より広範囲で、継続的な実践的援助を構築している人々がいる。たとえば、全米の多くの都市で「ズーマーからブーマーへ」と呼ばれるネットワークを介して高齢者や免疫不全の人々に食料や物資を届ける若者たちや、イギリスの「アダプト・ア・グランドペアレント」というプログラムのように孤独を感じている者に精神的な支援を与える組織づくりをしている人々などだ。これらは新しいグループ、プロジェクト、組織、ネットワークであり、この危機に対応して改革している古くからあるグループである。
フィジーを拠点とする気候変動問題の組織の主催者テルヤ・ヤング・ルトゥナタブア氏は、取り残される人が誰もいないように、フィジーの伝統である公平で強力的な食糧配給の形式が復活したことについて語ってくれた。「これを乗り越える方法は、一体になることです」と彼女は言った。
15年前、ハリケーンカトリーナの直後、ブラックパンサーの元メンバーだったマリク・ラーヒムを含む被災地に住む少数の人々が「コモングラウンド・リリーフ(共通の基盤を持つ困窮者救済)」という名の相互扶助組織を設立した(アメリカでは、おそらく最も有名な過去の相互扶助の例は、都市部の住民の飢餓を緩和させるためのブラックパンサー党による1960年代の食糧プロブラムであろう)。グループのスローガンは、ウルグアイ人作家エドゥアルド・ガレアーノの「私は慈善を信じていません。私が信じるのは連帯です。慈善はとても垂直です。上から下に向かうだけ。連帯は水平です。他者を尊重しています。私が他者から学ぶことはたくさんあります」という言葉からインスピレーションを得た「慈善ではなく連帯」というフレーズだった。
㊟1、2:「良いインディアンは死んだインディアンである」と言われ、更に、辺境の荒野に追われ、閉じ込められた先住民たちが、ここで言われている「ホピ、ズニ、ナバホ、パイユート」だったりします。そこは生活環境、中でも水の確保が難しかったりするため、感染症に対しては、劣悪な衛生条件の下での生活を強いられています。レベッカ・ソルニットは、そうした先住民の生活を弛まず支援するアメリカの活動家たちについても報告しています。
(次週につづく)
[バックナンバーを表示する]