(前週よりつづき)
㊟
「慣於長夜過春時、 挈婦将雛鬢絲有。
夢裏依稀慈母涙、 城頭変幻大王旗。
忍看朋輩成新鬼、 怒向刀叢覓小詩。
吟罷低眉無写処、 月光如水照緇衣。」
長夜(とこよ)に慣(な)れて 春(はる)時(とき)を過(すご)し、
婦(つま)を挈(たずさ)え 雛(こ)を将(ひき)いて 鬢(びん)に絲(しらが)あり。
夢(ゆめ)裏(うら)に依稀(ほのか)なり 慈母(じぼ)の涙(なみだ)、
城頭に変幻す 大王の旗。
看るに忍びんや 朋輩の新鬼と成るを、
怒(おか)りて刀(かたな)叢(くさむら)に向(むか)って 小詩(しょうし)を覓(もと)む。
吟(ぎん)じ罷(おわ)り 眉(まゆ)を低(た)れて 写(うつ)す処(ところ)なし、
月光(げっこう)は水(みず)の如(ごと)く 緇衣(しい)を照(て)す。
(大意。人目を忍ぶ常夜闇の生活にも慣れて、あたら春も過ぎゆく。妻子をたずさえて逃げまわるうちに、いつしか髪に白いものが混ざるようになった。夢の中にほのかに浮ぶ母の姿、母はわがために涙を流していた。しかも、見よ、城頭には暴君の旗がはたはたをひるがえっている。多くの友達が最近彼らの手にかかってむごい殺され方をした。これが見るに忍べようか。憤怒の心をもって、首斬り人どもの剣の林の中に、短い詩を求めた。さて詩はできた。しかし書いて発表する場所もない。じっとうなだれて月下に立てば、月は無言、ただその水のごとき光が、わが黒衣を照すのみ。日記には慣於を慣于に、忍看を眼看に、刀叢を刀辺に作る)
(「忘却のための記念」魯迅選集九)
東電福島の事故からやがて10年の事故現場では、一瞬の油断もできない事故対策に今も追われています。いいえ、東電福島はもちろん、原子力発電所の事故(国・東電は「事象」)は、大小を問わず、一瞬の油断も許されないのです。本来、その稼働は放射性物質を完全に閉じ込めることが約束であり条件です。と言うのは、事故の大小を問わず、環境中に漏れ出すことになった放射性物質は、一般の毒物とは異なり、どんな意味でも除去は不可能だからで、そのものの減衰を待つ以外、どんな手だても阻みます。たとえ大小の「小」であっても手に余るのに、東電福島の事故は大は大でも「極大」の事故になって、おびただしい量の放射性物質を環境中に放出し、そして広く環境中に降り注ぐことになりました。事故から10年、今も環境中に放出し降り注ぐことも止めることができていません。放射性物質の毒を除去できないだけではなく、放出を止められないのは、止めようとする手だてそのものを、高濃度の放射性物質が阻むからです。
こうして続く事故の事実の情報の多くは、強い関心でそれを集めるのでなければ、ほとんどは知らされることもありません。そうした情報源の一つである全国紙は、ほとんどそれを伝えることはないし、唯一地元の新聞(福島民報・政経東北など)が、断片的とは言え絶えずそして幅広く報道し続けてはいます。
以下、そうした報道の中でも、2020年10月3日以降の地元の新聞の報道をもとに、東電福島の事故の現状を検討・報告します。(それより以前の2020年7月22日~10月1日については「じしんなんかにまけないぞこうほう号、号外48号」で検討・報告)。
・10月3日 「処理水処分巡る反対署名を提出/県民大集会実行委」
・10月6日 「政府の処理水意見聴取・8日東京で7回目/全漁連、水産加工連から」、「伝承館訪問バス経費補助、県内の小中高校など対象」
・10月7日 「第一原発廃炉への地元企業参入、実効性担保、東電に要求/NDP(原子力損害賠償・廃炉支援機構)」「飯館、長泥の除染土栽培作物、セシウムの濃度基準値下回る、環境省」
・10月8日 「中間貯蔵への除染土壌輸送量、累計900万立方メートル超、環境省」
・10月9日 「第一原発処理水/政府、処分方法近く判断、全漁連『海洋放出絶対反対』」「処理水処分、県内漁業者反対の声/意見聴取会傍聴『海洋放出認めない』」「2号機建屋に汚染ちり、規制委初の立ち入り調査」「3号機、燃料取り出し再開、トラブルで 1カ月中断」
・10月11日 「貫通部堆積物除去へ、『第一原発2号機』デブリ採取に備え」
・10月16日 「第一原発処理水、海洋放出反対要請、『風評の恐れきわめて大』全漁連会長、環境相に訴え」「富岡川漁連が反対表明」「新地の保安林解除申請『適当』県森林部会が答申」「トリチウム以外の放射性物質、再浄化試験で低減、第一原発」
・10月18日 「処分方法『日程ありきで結論』政府小委員会の委員が指摘」
・10月19日 「第一原発3号機燃料取り出し、年度内完了に課題、取っ手変形、隙間のがれき」
・10月20日 「東電への不信感根強く、重なる説明不足、国民理解進まず/風評は最重要問題、知事『影響与えないように』」
・10月21日 「第一原発処理水処分問題処分方針、説明努力『絶対必要』平沢復興相『議論不十分』指摘受け」「処理水放出なら法的措置、韓国知事が中止要求」
・10月22日 「海洋放出『抵抗感は認識』規制委員会、処理水処分方針で」
・10月23日 「処理水のトリチウム、国と東電情報発信を、『身体的影響大きくない』高村教授(長崎大研究所)」
・10月24日 「第一原発処理水、海洋放出懸念最多5000件超、政府意見公募」
・10月25日 「漏えい対策後手に、度重なるトラブル」
・10月26日 「地下水流入防げず、抑制いまだ課題山積み」
・10月27日 「第一原発処理水、情報十分に伝わらず、内堀知事『風評防止軸に対策を』」
・10月28日 「地下水100万トン放出、地下水には抵抗感」
・10月29日 「処理水処分、『拙速な決定容認できず』県民連合、あすにも知事に要望」「トリチウムの情報発信強化、東電復興本社代表、『地域分断申し訳ない』」
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