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2006年03月03週
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 グリム童話の「忠臣ヨハンネス」(「子どもに語るグリムの昔話」佐々梨代子、野村滋訳、こぐま社)には、「ヨハンネスが、こうよばれているのは、いつも変わらず、忠実に、王さまに仕えてきた」からだと書かれています。
 「・・・今寝ているこのベッドが、わたしの死の床になるだろう・・・」と考えた王さまは、ヨハンネスをベッドのそばに呼んで「・・・息子のことだけが気がかりだ。あれは、まだ若くて、どうすればよいか、わからぬことも多いだろう。おまえが親がわりになって、・・・なんでも、教えてやってくれ。おまえが、それを約束してくれるまでは、わしは、安心して目をつぶることができぬ」と、息子のことを頼みます。「・・・王子さまを、お見捨てするようなことはいたしません。わたくしの命にかけて忠実にお仕えします」という、忠臣ヨハンネスの固い約束の言葉を聞いて、王は息を引きとりました。
 忠臣ヨハンネスと王との約束はこんな具合でしたが、約束を命を代償に果たさざるを得ないことが起こってしまいます。亡くなった王との約束を守り、忠臣ヨハンネスは自分の命を代償に、王子(今となっては王)の命を守ります。その人の命を代償に、自分の命を守ってもらった人は、そのことを忘れるということがあってはならないのです。そして、今度はその人の為に自分の命(自分の命にも代え難い子どもたちの命)を代償にするのですが、それも又あり得ることなのです。
 例えば、約束とか命が、何にも代え難いことを描いたりしているのが、グリム童話です。(グリム兄弟が書き残した童話・物語もそうだし、日本の多くの昔話もそのことを描きます。)命に代わるものは命しかあり得ないのです。という約束や命のことを描く、グリム童話「忠臣ヨハンネス」が、物語としての力を持ち続けてきたのは、理由があってのことです。誰かの命は、必ず誰かの命を代償にしてしか、そこにはあり得なかったし、その命にも必ず終わりというものがあります。それを物語に託し、時には面白おかしく、時には厳しく残酷に、しかし人の“事実”が描かれたからこそ、永く今も人から人へと伝えられることになったのです。
 「・・・人間は、自然の中で最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である。これをおしつぶすのに、一つの蒸気、一つの水滴もこれを殺すのに十分である。しかし宇宙がこれをおしつぶすとしても、そのとき人間は、人間を殺すこのものよりも、崇高であろう、なぜなら人間は、自分の死ぬことを、それから宇宙の自分よりずっとたちまさっていることを知っているからである。宇宙は何も知らない」と書いているのはパスカルです(「パンセ、347」新潮文庫)。
 「忠臣ヨハンネス」というグリム兄弟によって書き留められた物語から、人は生きること、そして人は死ぬことを学びます。パスカルの短い断章から学ぶのも、人は生きること、そして人は死ぬことです。更に、生きるのも崇高であるし、死ぬのも崇高であるとことを学びます。「・・・2001年の付属池田小事件で亡くなった児童8人は、遺族の希望で学籍が残され、同級生たちとともに名簿に載り、一緒に進級してきた。このうち当時2年生だった7人が、15日卒業式を迎える」(2006年3月12日、朝日新聞)。「・・・児童8人が死亡、教諭2人を含む15人が重軽傷を負う事件が起きた大阪教育大付属池田小学校で15日卒業式があった。事件から4年9ヶ月。当時2年生で犠牲になった女児7人を含む116人に卒業証書が贈られた」(2006年3月15日、朝日新聞)。このことで“学籍が残され”ていることを知り少なからず驚きました。そして、“名簿に載り、一緒に進級し”“犠牲になった女児7人”にも卒業証書が贈られたことについては、同じように少なからざる違和感を持って見つめています。
 認めなければならないのは、何としてでも認めなければならないのは、人は生きること、そして人は死ぬことです。同じように認めなければならないのは、人は生きるのも崇高であり、人は死ぬのも崇高であることです。学校が教えなければならないのは、何としてでも教えなければならないのは、人は生きること、人は死ぬことです。同じように教えなければならないのは、人は生きるのも崇高であり、人は死ぬのも崇高であることです。教育を教える者を育てる学校のことで伝えられていることに、これらのことを理解していないらしい、結果としては放棄しているらしいことに、少なからざる違和感を持って見つめています。

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