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小さな手大きな手

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2021年02月03週
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前週よりつづき)
蝶々よ燕(つばめ)よせかさないで
鶏頭や昼顔の花にも挨拶をしなければ
ヒマの髪油を塗った人が草取りをした
あの畑を見てみたい

私の手に鍬(くわ)を握らせておくれ
豊かな乳房のような柔らかなこの土地を
くるぶしが痛くなるほど踏み
心地よい汗を流してみたいのだ

川辺に遊ぶ子どものように
休みなく駆けまわる私の魂よ
なにを求めどこへ行くのか
おかしいじゃないか答えてみろ

私はからだ中草いきれに包まれ
緑の笑い緑の悲しみの入り混じる中を
足を引き引き一日中歩く
まるで春の精に憑かれたようだ

しかし、いま野を奪われ春さえも奪われようとしているのだ

 李相和のこの詩とこの詩がタイトルになった写真集「いま野を奪われ春さえも奪われた」が今も手元にあります。2011年3月11日からの東電の事故の後、鄭周河が繰り返し福島を訪ねて写した写真集にも紹介されている李相和の詩が、武藤さんと李政美さんのCDの中でも歌われているのは、うれし驚きでした。
 尹東柱の詩集「空と風と星と詩」と冒頭の「序詩」は知ってはいましたが、金時鐘の「編訳」は全く新しい出会いになりました。「いい詩だ」と、ぼんやり思ってはいたものの、岩波文庫版の「解説に代えて――尹東柱・生と詩の光芒」は、日本語で読む私たちの心をえぐり尹東柱との生きた体験に導かずにはおかないものでした。
 「…尹東柱の詩作品は、時節や時代の状況からはずれているノンポリの作品です。ですがその時、その場で息づいていた人たちと、それを書いている人との言いようのない悲しみやいとおしさ、やさしさが体温を伴って沁みてくる作品ばかりです。それはそのまま詩人が生きていた時代の日の射さない、暗がりの素顔を浮かび上がらせている意志的な反証ともなっているものです。あの極限の軍国主義時、こぞって戦争賛美や皇威発揚になだれを打っていた時代、同調する気配の微塵もない詩を、それも差し止められている言葉でこつこつと書いていたということは、逆にすぐれて政治的なことであり、植民地統治を強いている側に通じる言葉を自ら断つ、反皇国臣民的行為の決意をともなっていたものです」

 金時鐘が、尹東柱の「序詩」の「空と風と星と詩」について書いている「それを書いている人との言いようのない悲しみやいとおしさ、やさしさが体温を伴って沁みてくる作品ばかりです」は、そのまま李相和の「奪われた野にも春は来るか」に当てはまり、その「心情のやさしい詩」であることが、より強く、その時の国家意思に対し「反皇国臣民的行為の決意」となって表出しているように読めます。鄭周河の福島の写真展、写真集の見開き99枚の写真のうち3枚にだけ人間が写っています。残りの96枚の福島の写真に写っているのは「野を奪われ春さえも奪われた」福島です。李政美さんのCDの武藤さんたちの詩「ああ福島」は、「心情のやさしい詩」の言葉でしかし激しく「野を奪われ春さえも奪われた」福島を撃っているように読み聞きかつ口ずさんでもいました。
 引用の多い文章を長々と書いてきましたが、届けていただいた李政美さんのCDにすっぽり収められている、李相和、尹東柱、そして武藤さんたちの詩との出会い、自ら歩んできたささやかな遍歴の断片を見つけて、驚いて喜んで、及ばないとは言え、この国の国家意思の現在に対する私の「反皇国臣民的行為の決意」を新たにしています。
2021年2月10日
菅澤邦明

追伸
 鄭周河写真展の記録は、2015年になって高橋哲也、徐京植の「編者」で開催された6か所での討論の記録がまとめられており、冒頭には約20枚の写真展の写真と、李相和の「奪われた野にも春は来るか」の詩がおかれています。「朝鮮語の『春(봄)』の音は『見る』という意味もあるのです。それもただたんに『見る』のではありません。『直視する』『しっかり見る』という意味です。しっかり見ることは考えることを意味するのではないでしょうか。見ることを通して本質を理解すること、悟ること、それが何よりも必要だと訴える、それが『春』の意味だと思いました―鄭周河」(前掲書より)。
(次週につづく)
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