西宮公同幼稚園の庭に“はっさく”が植えられたのは、およそ20年くらい前のことです。「実のなる樹」が選ばれたのは、食べ物が満たされない時代に育って、“食べられる”ことに強い関心があったからというだけではなく、いくつもの物語が生まれるかも知れないという“予感”からでした。はっさくは、予感通りいくつもの物語を生み出してきました。
はっさくは常緑樹です。春にそのはっさくの葉っぱも生まれかわっています。5月、緑の葉っぱに隠れるようにして白い小さな花を咲かせます。しばらくすると、緑の葉っぱの蔭で小指の先くらいの緑のはっさくの実が見つかります。緑の実は、葉っぱの蔭で少しずつ少しずつ大きくなります。夏が過ぎ、秋が深まる頃に子どもたちは黄色になったはっさくの実を見つけて驚いたり喜んだりします。冬の強い風で落ちたはっさくの実を、子どもたちは大事そうに届けにくることがあります。その実を、見つけた子どもたちと“すっぱい、すっぱい”と言いながらこっそり食べたりします。
年が明け1月になっても、まだはっさくは収穫はしません。2月になり、落ちたはっさくの実を食べてみると甘味が増しそろそろ食べ頃なのがわかります。そしてある日(今年のある日は3月1日でした)、幼稚園の子どもたち全員で集まって、はっさくの収穫をします。たった一本のはっさくの木から、今年は146個の実がとれました。手が届かなくて、木の枝の先に残ったものを加えると155個です。
幼稚園の子どもたちが、そのまま味わった後の皮は、お母さんに手伝ってもらいはっさくママレードになり、パンに乗せられておやつになります。残りのママレードでケーキが焼かれ、やはりおやつになりました。そして、はっさく、ママレード、ママレードケーキのおいしかった思い出がまだ残っている頃に、はっさくの木では葉っぱが生まれかわり、白い花を咲かせる準備が始まっています。
で、まだはっさくは残っていて、平岡さんに今年最後のママレードを作ってもらいました。そのママレードは、特別の瓶に特別のシール(岡さんの刺繍をカラーコピーしたシール)が貼られ、更に「西宮公同幼稚園の一本のはっさくの木から“ママレード”が生まれるまで」の文書を添え、兵庫県企画管理部教育・情報局教育課の皆さん、及び教育課長の藤原茂之さん(昨年就任半年で亡くなった井上一さんの後任)、そして兵庫県知事の井戸敏三さんに届けられました。たとえば、私立幼稚園の経常費補助金の額などの最終案を作成するのが藤原さんの課長としての役割です。その最終案は、最後の最後に知事の下で査定され(加えられたり削られたりし)、議会で承認されると決定になります。こうして決まった、2006年度の私立幼稚園の経常費補助は園児一人あたり、学法で102、2パーセント、3863円増の175914円、非学法(西宮公同幼稚園は宗教法人立で非学法になる)で104、4パーセント、2000円増の47000円です。パーセントはともかく、もとの金額が違う為、学法、非学法の補助金の差は開くばかりです。
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